沖縄は二つのヤマ場を迎える 設計概要の変更申請と県議選

 防衛省は昨年12月25日、新基地建設にかかる総工費は9300億円、埋め立て工期は9年3カ月との見込みを明らかにした。これにかんして河野防衛大臣は記者会見で、「工期が示されたことで、それを1日も早く完成させたい」「設計概要の変更申請については、十分検討して出す」とこたえている。

 安保破棄中央実行委員会の東森英男事務局長は、「沖縄防衛局が沖縄県に設計概要の変更申請を3月末までにおこなうだろうが、玉城デニー沖縄県知事は承認しない姿勢だ。国は、沖縄県が認めないのは違法だとして、裁判を起こすだろう。埋め立て工期はその決着がついてから工事をはじめることになるのだから、さらに延びる」と言う。工事費用についても、沖縄県は2兆5500億円と試算しており、防衛省は低めの数字を出しているとみている。

 また、埋め立て土砂の全量を沖縄防衛局は、沖縄県内で調達する考えだと報道されていることについて、沖縄県内で全量確保するめどは立っていないとも語った。

 沖縄県統一連の瀬長和男事務局長は、辺野古の海へ土砂投入が開始されて10カ月で進捗率はわずか1%に過ぎない。工事が全然進んでいないことが明らかになり、多くの県民は、辺野古新基地は止められるとの確信を深めているという。1分でも1秒でも工事を遅らせたいと連日ゲート前に結集し、座り込みを続けた県民の努力と、支え続けた全国の連帯の力のたまものだとこぶしをにぎった。

 そのうえ、軟弱地盤の存在も関係していると指摘する。沖縄防衛局が、当初、沖縄県に出した埋め立て申請では、大浦湾側から始めるとなっていた。ところが、辺野古側から始めた。それはなぜだろうと疑問に思い、海底の地形、もしくは地盤的な問題があるのではないかと追及してきた。ボーリング調査結果を沖縄防衛局はずっと隠し続けていたが、とうとう情報公開した。そして、昨年1月だが、ようやく軟弱地盤の存在を認めた。

 お二人の話で、沖縄県民のたたかいと全国の連帯が、基地建設工事を押しとどめる力となっていることを浮かび上がらせてくれる。

 これから沖縄は、3月前後の設計概要の変更申請をゆるさないたたかい、6月沖縄県議選と二つの大きなヤマを迎えることになる。

辺野古のサンゴ 移植で死んでも成功と回答

 辺野古新基地建設にともなうサンゴの移植について沖縄防衛局は1月20日、環境監視等委員会にたいし沖縄県から出されている照会に対する回答案を報告した。

 

 沖縄県の質問項目は多岐にわたるが、「移植先の評価について」の項目では、移植したサンゴが死滅したことについて、その原因および移植先の環境が妥当であったかなどについての見解をただしている。

 ○オキナワハマサンゴ1群体(No.23)の死亡した要因の考察において、「移植先において移植したオキナワハマサンゴの生息に影響を与えるような特異な水質及び流れのデータは確認されておらず」とし、同様に、令和元年11月12日に開催された第22回環境監視等委員会資料によれば、オキナワハマサンゴ1群体(No.15)の死亡した要因の考察において、「移植先において生息に影響を与えるような特異な水質及び流れのデータは確認されておらず」としていることから、移植先ごとの水温、流向、流速、波高、水位、濁度、栄養塩等の調査結果及び「特異なデータ」と判断する際の項目ごとの基準について示す必要があると考えます。

 ○移植先に元々生息していたサンゴのうち、××(移植先名。公表にあたって伏せられている)では平成30年11月までに5群体中3群体の死亡が確認されていることから、上述の水質や流れのデータ及びオキナワハマサンゴの特性を踏まえて、移植先がオキナワハマサンゴの生息環境として妥当であったか評価する必要があると考えられます。

と、具体事例についての評価を求めている。

 

これにたいし、沖縄防衛局は、

「これまでモニタリングを行った結果、移植したオキナワハマサンゴは、いずれも移植先の環境に順応したと判断しております。移植したオキナワハマサンゴ及び移植先に元々生息しているオキナワハマサンゴにおいて死亡した群体が確認されていますが、これらについては第22回環境監視等委員会において『移植先に元々生息していたオキナワハマサンゴを見ますと、部分的に白化しているものが多く、しかも観察中に死亡しているものが3群体となっており、その原因もよくわからない状況かと思います。頻度から考えても、移植群体で死亡率が高いということもありませんので、これがこの種類のサンゴの生態をそのまま示していて、ある程度の大きさになったら、ある程度の確率で死んでしまうため、小型のサンゴであるということが考えられます』『移植先に元々生息していたオキナワハマサンゴも観察したところ、7群体のうち3群体が死亡していることで、移植は成功しているのではないかと思います』との意見を頂いており、これらの現象は正常な生活史の一環である可能性が高いと考え、検証していく予定としております」とこたえている。

 

 移植先で、もともと生息していたサンゴも死んだんだから、移植したサンゴが死んでもやむを得ないことで、特段、移植が悪かったわけではないと開き直るにとどまらず、「移植が成功」とまで言うに至っては言葉を失う。

施政方針で辺野古にふれず それは既定の方針だから

 首相の施政方針演説では、「辺野古」という言葉が出てこなかった。政府の方針に変化があるのではないか、そういう憶測もでたようだ。河野防衛相は1月21日の記者会見で、従来の方針に変わりはないと否定し、「工期も明確になったので、1日も早くできるように努める」と沖縄防衛局を叱咤した。

 

記者会見のやりとり―。 

Q:首相の施政方針演説ですが、これまで演説に盛り込んでいた普天間飛行場返還の移設先としての辺野古について、今回は触れませんでした。代わりに海兵隊のグアム移転が入ってきましたが、このような表現になったことについて、大臣のお考えをお願いします。

A:おそらくグアム移転は、沖縄の負担軽減に非常に大きく貢献をすることになると思います。いよいよグアム移転が本格的に始まることで、演説の中に盛り込まれたと思っております。

Q:辺野古の工期が12年かかる見通しで、2030年以降の完了となる見通しとなっており、政府のこれまでの「1日も早い普天間の危険性除去」という表現が言いづらくなっているのではないかという見方もあるのですが、この指摘について、いかがお考えでしょうか。

A:いよいよ辺野古への移転についても工期が明確になりましたので、しっかりと努力をして、それを1日も早くできるように、工期を1日でも短くできるように、政府としては努めていきたいと思います。

Q:「1日も早い普天間の危険性の除去」が言いづらくなっているという指摘はいかがでしょうか。

A:工期が明確になったことで、1日でも短縮していこうという目標が明確になったと思っております。

Q:従来の方針は変わっていないということでしょうか。

A:はい。

 

 河野防衛相は今月15日、エスパー米国防長官と会談した際、辺野古の工期が9年3カ月になったことを説明している。対米公約を何の相談もせずに、「辺野古が唯一」という方針を一方的に変更す、了解を得た。だから、日本政府が方針転換をしたのであれば、米国と改めて協議をするはずだがそんな形跡はない。だから、辺野古が進まないからと言って、日本の独自判断で「辺野古が唯一」という方針を変えるはずはない。

 記者会見の中で出された「2030年以降の完了となる見通しとなっており・・・1日も早い普天間の危険性除去という表現が言いづらくなっているのでは」という見方は、世間の人はそう思うのは当然だと思うが、そういう感覚が働かないのが、安倍政権だ。沖縄の民意が何度も示されたというと、「永田町には永田町の民意がある」と言い放ったことは記憶に新しい。

 安倍演説で注目する点があるとすれば、グアム移転が安倍首相にとってどういう意味があるのかという点であろう。沖縄の負担軽減の事例として持ち出しているのであり、安倍内閣が汗をかいて沖縄の負担軽減をおこなうという話ではないのである。

 沖縄の人たちは、海兵隊のグアム移転を“沖縄から撤退するのであれば、辺野古移設は必要なくなる”と受け取っているだろうが、安倍首相はおそらくそうではない。グアム移転と辺野古新基地建設は切り離して考えていることだろう。

 記者は「海兵隊のグアム移転が入ってきましたが、このような表現になったことについて、大臣のお考えをお願いします」と聞いている。これにたいする防衛相の「グアム移転は、沖縄の負担軽減に非常に大きく貢献をすることになる」という回答に満足せず、「ならば、辺野古移転の必要性はなくならないか」とダメ押しをすべきだったのではないか。

 

現行安保条約調印から60年 いま何が問われているか

 現行日米安全保障条約調印から60年。日本政府は1月19日、飯倉公館で記念式典をおこなった。

 安倍晋三首相は「今や日米安保条約は、いつの時代にもまして不滅の柱。アジアとインド・太平洋、世界の平和を守り、繁栄を保証する不動の柱だ」と表明した。米国政府を代表してヤング臨時代理大使が、世界全体の平和,安全及び繁栄に不可欠な役割を果たしてきたことを讃えるトランプ米大統領のメッセージを代読した。

 外務省は、「今回のレセプションでは,旧・日米安全保障条約署名本書並びに,日米安全保障条約署名本書及び批准書の展示を行うとともに,旧・日米安全保障条約及び日米安全保障条約の署名式やトモダチ作戦安倍総理トランプ大統領海上自衛隊護衛艦『かが』訪問等の写真の展示を行い,日米安全保障条約60周年を祝福した」としている。

 2日前の17日には、日米両政府は「過去60年間の成果を賞賛するとともに、今後も日米同盟を強化し、日米両国が共有する価値と諸原則を堅持するとの揺るぎないコミットメントを改めて表明する」との共同発表を行っている。

 

 しかし、冷静に考えれば、トランプ米大統領のもと、本当に世界の平和と繁栄は保障されるのか、強い不安を覚えたばかりだ。このまま第3次世界大戦になるのではとツイッターでつぶやいた人もいた。安倍首相が9条改憲にしがみつくのは、本当に戦争をやりたいからだろうという声も聞く。

 メディアは、全体として安保体制肯定だ。なぜ、正面から、こうした市民の不安を取り上げ、本気で検討しないのだろう(日米同盟のありかたを問う記事、論評もないわけではないが)。

 日米安保体制は、集団的自衛権の行使を可能にした安保法制=戦争法以降、米国が地球規模で起こす戦争に日本が参加し、自衛隊が海外で武力行使する危険をかつてなく高めている。現行安保条約とともに締結された日米地位協定は、日本の航空法を米軍に適用しないとしてことから来る米軍機の騒音や低空飛行訓練、墜落事故にたいしても日本側の捜査を基本的に排除する、環境汚染が発生しても日本側が基地に立ち入りできないなど深刻な問題がさまざま起きている。安保条約と日米地位協定の両方をセットで見ることが大切だと思う。

辺野古は今

 第二東京弁護士会憲法問題検討委員会が開いたシンポジウム「辺野古は今! ~沖縄辺野古基地建設問題の現状と法律問題」に参加した。2カ月に一度は辺野古に通っているという内田雅敏弁護士が辺野古ゲート前での抗議行動の様子を、抗議船「不屈」の船長をしている日本キリスト教団佐敷協会牧師の金井創さんが海上でのたたかいを紹介した。専修大学の白藤博行教授は沖縄県が国を相手に争っている「関与取り消し訴訟」と「裁決取り消し訴訟」の焦点を解説。沖縄防衛局がこれから出してく埋め立て工事設計概要変更申請にも若干触れた。

 金井さんの発言を紹介する。

 大浦湾側の工事にかかわって問題点を三つあげたい。①急激に落ち込む谷の斜面に建築②活断層の可能性③軟弱地盤―である。金井さんは、ダイバーに人気のあるクマノミが、大浦湾では、6種類全部が見られるスポットがいくつもあることを紹介しながら、大浦湾では新種の生物が次々に発見されており、いわば未知の海で、世界の宝といってもいい海だと大浦湾の魅力を語り、そんな海を壊して基地をつくるということはとんでもないことだという。

 軟弱地盤が「マヨネーズ」にたとえられるが、実は、サラサラの海底というのが近い。そこに1個2000トンのケーソンを設置するため、地盤改良工事をするといっているが、疑問だ。技術検討会で、専門家のおすみつきをもらうというが、報道されてみなさんご存知だと思うが、その専門家は業社から献金をもらっている。 

 海での抗議活動を規制するのは海上保安庁。2014年以前は、海保は、抗議者であれ、工事を進める側であれ、危険な行為はとめていた。ところが安倍内閣になってから、海保は、工事をする側のガードマンになった。

  辺野古は、新基地建設工事に目がいくが、実は、キャンプ・シュワブ基地があり、米軍が日常的に軍事訓練を行っており、ここから戦地に出ていく。私たちは、戦争の加害者の側に立ちたくない。

 安和のたたかいを話しましょう。ここは、辺野古を埋め立てる土砂の積み出し港になっており、私たちはここでも抗議活動を行っています。安和の桟橋は、辺野古と違って米軍への提供水域ではないので、抗議のカヌーが船に近づくことを止める法的根拠はありません。今のところ1時間くらい船を止めている。海保は隊員が海に入って、カヌーを結び付けているロープをほどく。それに時間がかかっているのです。寒くなってきているので、1時間も隊員を海につけておくことはできないから厳しく対処するといってきている。

 現場では、1分でも10分でも、1時間でも止めよう、引き延ばそうとやっています。劇的に何かできるわけではないが、そういう粘り強いたたかいに多くの人が目を向けてくれ、心をつないでくれ、声をあげてくれることを期待してたたかっています。世論が動けば、政治がかわる、息長くたたかい続けよう、それが現場にいるみんなの気持ちだ。

見通しのない辺野古工事に9300億円は許されるのか

 政府が辺野古新基地建設に2011年7月に着工して5年半、土砂投入を2018年12月に開始して1年たつが、安倍政権が思い描いたようには進展していない。海中に投入した土砂量は、1・1%程度にとどまる。このことは以前にブログで書いたが、大浦湾側に軟弱地盤が広がっており、沖縄県の承認を受けた工事設計ではその軟弱地盤の改良が想定されていないため、手を付けることはできなかったからだ。

 防衛省は、昨年12月25日に開催した「技術検討会」で、埋め立て工期が当初予定の5年から9年3カ月に伸び、埋め立て工事後の施設整備などをふくめれば基地完成までに12年かかると報告した。「1日も早い普天間の危険性の除去のための辺野古移設」というこれまでの政府は何だったのかと、宜野湾市長は渋い顔だ。

 12年というのは、沖縄県が設計概要の変更を認めてから、ということになるので、仮に工事が完成することがあるとしても、20年、30年かかるだろうと言われている。

 その設計概要の変更申請だが、年度内、つまり今年3月までに申請するのが国の考えだ。しかし、技術検討委員会に提出された資料で見る限り、検討されるべき課題がまだ整理されていないようである。とはいえ、“支障のない範囲”として、申請に踏み切るかもしれない。

 デニー知事は、辺野古新基地建設は認めない立場だが、申請書が提出されたら、受理し、審査しないわけにはいかない。サンゴの移植申請にたいする審査が非常に厳格で、移植先の環境についての検討が不十分であると考えられ、専門家の助言を受けるようにといって申請のやり直しを求めたりしたため、通常の数倍の期間がかかって、ようやく申請が通ったということもあった。現在、沖縄県が起こしている抗告訴訟での沖縄県の主張を考えれば、軟弱地盤の改良が不十分であるということだけでなく、環境に対する配慮がなされていない、活断層があるのに耐震設計がなされていないなどの問題を指摘し、出し直しを求めるだろう。これにたいして防衛省はどういう対応をするだろうか。申請を認めないのは違法だとして、代執行訴訟に訴えることも計算しているかもしれない。

 2014年に防衛省が示した辺野古の総工費は3500億円だったが、2・7倍の9300億円に修正された。安倍政権が、今の時点で示すことができると政治判断した額で、純然たる計算で導き出された数字とは考えにくい。それはともかく、財政難のなかでこれだけの巨費を辺野古に投入することが許されるのか、そういう角度からの国民的議論も必要になっている。

早くも熱を帯びて来た6月(予定)の沖縄県議選

 今年6月に予定されている沖縄県議選が、早くも熱を帯びてきている。先日、自民党は、県政を奪還しようと那覇市内で新春の集いを開いた。そこでの仲井真元知事の「辺野古推進」発言がニュースになった。自民党沖縄県連の公式方針は、「普天間基地辺野古移設容認」であり、「推進」ではない。しかしこの間の自民党のたたかいかたは、「辺野古には触れず」と「辺野古容認」で揺れ続けた。そして一時は奏功しても、全体的に見ればオール沖縄に敗れて来た。仲井真氏が得た結論が「県議選は旗幟鮮明にしてたたかえ」だったのではないか。県連の思惑がどうであれ、安倍政権としては辺野古推進、県政奪還につなげる選挙に、であろう。現在、沖縄県議会(定数48、欠員2)の勢力分野は、玉城デニー知事を支える与党が26議席(「社民・社大・結」会派11、「おきなわ」会派8、共産党6、無所属1)、野党は20議席(自民14、公明4、維新2)。この勢力分野の帰趨が最大の焦点になることは間違いない。

 沖縄県議会与党は、デニー知事を支えることを掲げ、実際、そういう働きをしてきたことは確かだ。たとえば、国と県との訴訟。翁長知事(当時)や玉城知事が国を相手に起こした辺野古関連の裁判の費用は、すべて県予算からだしてきた。辺野古新基地は認めない、を公約に掲げて当選し、県政の重要課題に掲げているのだから、その政策実現のための財政支出は当然である。自民党県議団は、裁判をおこしても県に勝ち目はなく無駄な支出だとして、繰り返し反対してきた。与党県議団は、辺野古新基地建設ノーが一貫した民意であること、建設の大義がないこと。建設実現の見通しもないことをたえず、議論の中で明らかにしてきた。知事を先頭に県庁一丸となった辺野古対策、辺野古現地での不屈なたたかいとともに、県議会での議員団の奮闘も県民の世論を崩させなかった力になっている。とはいえ、政権とのたたかいであり、押されたり、押し返したり、を繰り返して来たというのがリアルなところである。

 県議選で、与党議員が減るか増えるかはきわめて重要な意味を持つ。同時に、与党の勝利は、辺野古新基地建設をがむしゃらに推進する安倍政権への痛打ともなる。