「沖縄戦」控訴審始まる(5)

 瑞慶山茂弁護団長の地裁判決批判のうち、2点に絞ってみておきたい。その一つは戦場体験によるPTSDについての判断回避と米軍が行った行為が国際法違反であることについての判断回避という点である。


沖縄戦の戦時・戦場体験に起因するPTSDなど外傷性精神障害についての認定を回避
また、原告ら37名のPTSDを含む外傷性精神障害の主張については、精神科医鑑定書 や診断書を提出し、それを裏付ける医学的文献なども多数提出しているが、理由を全く示さ ずに、判決は完全に判断を回避しています。控訴審においては、さらに6名の原告がPTSDと診断され、43名となりましたので、追加主張しています。この外傷性精神障害は、現在においても症状が継続しているにもかかわらず、それを回避することは、法的判断をする 責任を負っている裁判所としては許されないことです。

 沖縄戦における被害は、明治憲法下の被害であり、当時は、その被害について国家が保障するという法的仕組みがなかったのだから、国家に被害補償を行う義務はないという「国家無答責」とする「法理論」に依拠して、那覇地裁沖縄戦被害にたいする請求を退けたが、それは、PTSDが現在起きている被害であり、過去の戦争に起因するものであっても、現在の国家が責任を負う必要はないというのは誤りであるが、その主張に裁判所はきちんとこたえよ、という批判である。
 同じような議論は、中国での毒ガス遺棄によって戦後数十年して起きた毒ガス被害者の賠償請求であった。
 中国人強制連行事件が時効など「時の壁」や国家無答責論によって、敗訴することが多いなかで、毒ガス遺棄事件を担当した弁護士たちは、毒ガス遺棄事件は戦後補償問題の一つではあるが、旧日本軍が中国大陸に遺棄し、その事実を中国政府と中国国民に知らせなかったことによって戦後に起きた、今日的な被害であるから、国家無答責を適用することは誤りであり、また、中国国民が日本政府に損害賠償することができるようになったのは日中国交回復以降であり、実質的には中国政府が対日賠償請求を黙認するようになったこの10数年であるから、時効などによって退けることはできないという論を展開した。
 政府は、賠償は否定したが、医療研究協力にたいする補償として基金を供出することにより、実質的に被害補償をおこなった。
 こういう前例もあるのだから、裁判所は、このPTSDで苦しむ人々に救済の手を差し延べる道はあるはずである。

〇沖縄の地形を変容させ、数え切れない数の一般住民被害をもたらしたアメリカ軍の無差別絨毯艦砲射撃などの国際法違反の基本的事実については、理由も付さずに判断を回避しました。凄惨な沖縄戦の根本的被害を惹起させたアメリカ軍の軍事行為に対する国際法 違反の判断を回避したことは、不当と言うほかはありません。

 一般市民に対する無差別爆撃が、第二次世界大戦当時であっても国際法違反であったことは動かせない。その無差別絨毯爆撃を最初に行ったのは、旧日本軍による重慶大爆撃であった。だから、当時の戦争の経過からいえば、日本が中国に対して行った絨毯爆撃は、その後アメリカによって沖縄の地上戦の中で行われ、日本中の各都市への爆撃として、ブーメランのようにかえってきた。とはいえ、それがアメリカの国際法違反を免罪する理由であってはならない。このことは、一般市民が犠牲になるような戦争を絶対に行わせないために必要なことである。戦争法を強行し、その具体化を次々に進める安倍内閣の下では、なおさら重要な視点だろう。