中国人強制連行問題解決への新たな展開(3)

 

中国人強制連行問題 新たな展開 下

  世界は人道優先 森田太三弁護士に聞く

           2013年12月26日付しんぶん赤旗

 

―太平洋戦争時代に徴用された韓国人が日本の企業にたいする損害賠償を請求した裁判で、ソウル高裁や釜山高裁などが相次いで賠償命令を出しました。これらの判決をどうみますか。

 森田 日本政府は、日韓請求権協定で解決済みとしていて、企業にたいして賠償に応じないように求めたと報じられています。しかし、こうした対応では、事態は収まらないと思います。韓国では、日本軍「慰安婦」問題と強制連行問題は、未解決の問題としてとらえられています。歴史問題をきちんと解決しなければ、韓国や東アジアの友好と平和を築けないでしょう。

 

●特異な判決ではない

 

 ―戦後補償問題は、世界的にはどうなっていますか。

 森田 2000年の判決ですが、ギリシャ最高裁は、第2次世界大戦中にドイツが引き起こした虐殺事件にたいして、原告勝訴の判決を出しました。「主権免除」という国家の行政・権力がおこなった行為の責任は他国では問われないとする原則があるのですが、それを排除した判決です。ギリシャはドイツとの間で請求権放棄もしていますが、それをも乗り越えています。後に特別最高裁でドイツ勝訴になりましたが、侵略戦争による被害は救済されなければならないという人道主義が優先される流れが大きくなりつつあることを示しています。韓国の判決も、けっして特異なものではありません。

 ―中国では、韓国の判決はどう受け止められていますか。

 森田 中国でも報じられています。この流れは中国にも波及していくことはまちがいないでしょう。中国人強制連行問題の場合、西松判決が出発点になります。最高裁判決は、中国人個人の裁判を通しての請求権は失われているが、個人の実体的な請求権は残っていると言っています。それを踏まえて、最高裁は付言という形で、国や企業の関係者は解決の努力をと促しています。この最高裁の意思は、政府も無視するわけにはいきません。ただその方向に向かうかどうかは、世界の動向や日本国内の世論にかかっているでしょう。

 

●日本も新しい流れ

 

 ―裁判終結後、弁護団は、三菱マテリアルとの交渉に取り組んできましたが、進展していますか。

 森田 これまで中国の被害者団体間に要求に隔たりがありましたが、ほぼまとまりつつあります。来年には被害者が日本に来て会社と交渉することになりそうです。

 ―日本でも新しいとりくみが広がりつつありますね。

 森田 8月に中国人強制連行問題の運動にとりくむ各地の運動団体の連絡会結成が確認され、10月に「中国人強制連行事件解決をめざす全国連絡会議」が発足しました。三菱マテリアルとの交渉のほか、京都・大江山や愛知・大府のとりくみの支援、各地でとりくまれている追悼式、追悼碑建設、調査活動などの活動の交流をすすめることが話し合われました。強制連行問題の解決にむけた運動が前進すると思います。

(おわり)

 

 西松判決 西松建設は、広島県の安野水力発電所工事に中国人360人を使役。最高裁は2007年4月、請求を棄却。一連の中国人強制連行訴訟での最高裁としての最初の判断でした。