中国での強制連行裁判にかかわる最近の動きについて

 2014年上半期に中国各地で強制連行・強制労働の被害者・遺族が相次いで中国の裁判所に提訴していたが、北京市第一中級人民法院(日本の地裁に相当)だけが正式に訴状を受理していた。その後、動きは見られなかったが、2015年2月11日、弁護団の康健弁護士らが記者会見し、地裁が近く審理を開始することを決定したことを明らかにした。読売新聞は、「原告側弁護士は、裁判の具体的な期日について明らかにしなかったが、『3月上旬になる』と述べた」としている。

 中国での報道によれば、北京地裁は訴状を受理した後、被告である日本企業2社に訴訟材料(訴状)を届けた。中国側弁護団もそのニュースを把握していて、訴状は昨年第4四半期に渡されたという。

 中国メディアのひとつ「新浪ネット」は、「弁護士団の話では、この案件で提訴した後、三菱は以前の傲慢な態度を改め、頻繁に各方面の労工代表と接触し、‘和解を進めることを加速したい”としていた。しかし、1年たち、2月11日、中国労工の賠償請求事件弁護団は、三菱との“和解交渉”の中止声明をメディアに発表した。弁護団は、三菱側が原則的に誠意ある態度を表現すれば、いつでも法廷外で対話を回復できるとしている」と報じている。

 2カ月以内にも開廷し、審理が行われる見込みとされているが、裁判所は、具体的日時をまだ設定しておらず、日程を調節中らしい。弁護団は、被害者本人の証言ビデオを作成して、開廷時に正式の証拠として裁判所に提出する考えだとしている。強制連行当時からすでに70年たち、本件の原告40名のうち被害者本人は2人だけで、しかも高齢のため、法廷に出られるか不明である。

 ほかにも数件が提訴されているが、それらとの関係について、東京新聞は、「原告団が求める『集団訴訟方式』を裁判所が認めれば、各地で起こした同様の訴訟が一本化され原告数は大幅に増える」が、「康弁護士は『裁判所はまだ(集団訴訟方式を)受け入れも拒絶もしていない』と話した」と報じている。

 

 この記者会見で同弁護団は、被告2社のうちのひとつである三菱マテリアルとの和解協議を中止することも同時に発表した。地裁の正式受理後、三菱マテリアルは原告側に和解協議を申し入れ、両者で協議を続けていた。原告側は、和解案が文書で示され、「数回、交渉した」が、三菱マテリアルは、強制連行の同社の責任を認める文言を盛り込むことを回避しようとしており、誠実でないと反発し、和解協議の中止を決めたとしている。

 和解案は公表されていないようなので、各報道の情報を総合するほかない。

 ・和解案では、被告企業で働いていた元労働者三千七百六十五人全員に十万元(約百九十万円)ずつ支払うほか、被告企業による謝罪文や記念碑を設置するなどとしていた。[東京新聞]

 ・(原告側は)謝罪文で三菱マテリアルの責任を直接認めていない(としている)。[東京新聞]

 ・弁護団によると、昨年2月の提訴後にあった和解協議で、三菱側が、元労働者と遺族3765人に1人当たり10万元(約190万円)を払う▽原告側に調査費用2億円を払う▽問題解決のための基金の設立――などの条件を示した。元労働者への人権侵害に「深刻な反省」と「謝罪」を表明する姿勢も示したという。しかし、原告側は、強制連行への直接的な関与を認めていない▽支払金や基金を賠償目的と位置づけていない――などを理由に「誠意が見えない」として、協議の中止を決めたという。[朝日新聞]

 ・弁護団によると、三菱側が「歴史的責任」を認め、一定の金額を支払うなどの条件では不十分で、法的責任を認めるよう主張している。[北京時事]

 ・原告側によると、昨年2月の提訴後、三菱側との和解交渉が始まり、取り交わす文書の内容について協議。文書では三菱側が「雇用主としての歴史的責任」を認めて謝罪することや、1人10万元(約190万円)の支払い、基金への資金拠出などが盛り込まれた。 これに対し、原告側は「強制連行を推進し実施し、利益を得た者」として賠償責任を明確にすることなどを求めたが、受け入れられていないという。[北京時事]

 ・(弁護団の)声明は例を挙げている。三菱は、戦時中に行われた強制連行に参与したことを隠し、中国人労工を受動的に受け入れたように表し、中国人労工を奴隷のように酷使することを通じて巨額の利益を得ることを否定して、また722名の労働者の死亡と酷使の行為の間の法律上の因果関係などを否定した。その他に、三菱の“当時雇い主としての歴史的責任を認める”との表現は、強制労働と平等な雇用関係とを混淆させている。[新浪]

 

 「新浪ネット」は、中国側弁護団の李海彦弁護士の話を紹介している。「“和解交渉”の処理は“中止”であって“停止”ではない。原告側は誠実な和解であれば歓迎し、和解による解決の門を閉ざしたわけではない」。

 なお、共同通信は、「中国での統一交渉団の日本側代理人は、康氏が代理人を務めているのは中国側被害者の計6グループのうちの一つにすぎないため、全体の和解交渉は継続していくとの見通しを明らかにした」としている。