宮浦坑で働かされた劉千さんの日本での法廷証言(3)
宮浦坑で強制労働をさせられた劉千さんの証言はつづきます。
帰国後の生活
どんなルートで帰国しましたか。
-アメリカの軍艦に乗せられて、塘沽に帰りました。
あなたが帰国したときには、既にあなたの足は自由に歩けるようになっていたんですか。
-とんでもありません。
そうすると、どういう状態で中国に帰ったんですか。
-私はずっと足が不自由だったので、お互い、仲間同士で助け合っていただいて、汽車に乗るときも降りるときも、ずっと手伝いが要りました。そして、最後にふるさとの近くの駅に着いたときに、ちょうど通りかかった同じ村の人に会ったもんですから、その人が家のほうへ連絡してくれて、兄たちが迎えに来てくれました。
あなた自身は松葉杖か何かを使っていたんですか。
-そうです。ずっと松葉杖を使っていました。その松葉杖は、その後20年間というのは、私の手から離れたことがありませんでした。
中国に帰ってから、あなたの骨折した右足の治療をしてもらうために、医者に診てもらうということはありましたか。
-私はそういった経済状況にもなく、一日の糊口をしのぐのが精一杯でしたから、とてもじゃないけど医者には診てもらっていません。
あなたが帰った村には、あなたの足を治療できる医者はいなかったんですね。
-おりません。
あなたが医者にかかるために、遠方の病院に行くような、そういう経済的な余裕もなかったわけですね。
-はい、ありません。
生活自体はどういうふうにしましたか。
-兄弟たちが一緒になって、何とか生活をしてきました。
あなたが松葉杖を使わなくなるまでに20年くらいかかったと先ほど言いましたけれども、その間、自分で何とか動けるようにということで努力したということですか。
-そうです。ですから、私の関節は全然動かなかったのですから、それを少しずつでも動かそうと思って、毎日座っているときでも、自分で積極的に動かしておりました。
今、右足はどんな状態なんですか。
-今でも天気が悪いときは痛みます。
右足と左足の長さが違うというようなこともありますか。
-二指ぐらい高さが違います。
二つの指ぐらい、右足が短くなっているわけですか。
-そうです、右足が短くなっているんです。
(甲第89号証の2を示す)
私が写したあなたの右足の状態ですね。今、外から触っても、まだ、骨の凸凹が分かる状態でしたね。
-はい、そうです。ずれてるから、すぐ分かります。
結局、三井で医者2人があなたの手術をしたけども、きちっと正しく整復されないままで今日に至っていると、こういうことですかね。
-最初は医者が、いわゆる固定するときには合っていたと思います。しかし、その後、ずっと寝てる間に、起きたりいろいろするときに、だんだんとずれたんじゃないかと自分は思っています。
ずれたような状態は、日本におるときからあなたは感じていたんでしょうか。
-そうです。日本にいるときからそうなっていました。
(甲第90号証を示す)
(あなたのレントゲンフィルムなんですけれど)、骨が大きくゆがんでついてしまっている、こういう状態なんですね。
-はい。
(甲第89号証を示す)
(これが診断書ですが)、陳旧骨折、古い骨折があって、奇形癒合をしていると。
-大体この骨は一本ですから、折れたらなかなか回復は困難です。
ところで、今年の3月、あなたは私たち日本人の弁護士に初めて会ったときに、しばらく絶句されて涙を出しておられたことを覚えてますか。
-そうです。
そのとき、どんなお気持ちだったんでしょうか。
-非常に感動いたしました。
どういうことで。
-日本人の方の中にも、我々強制労働者に対してこのように心を砕いてくださっている方がいらっしゃるということに対して、非常に感動いたしました。
あなたはそれまで自分の胸にあったものを訴える機会がなかったわけですか。
-はい、そうです。どこにも訴えるところがありませんでした。
(甲第34号証の2を示す)
被告三井が戦後作成された華人労務者調査報告書です。その後、所在が分からなくなっていたというもののコピーですけれども、三井鉱山が作成した中国人の労働者の名簿を昨日、私から見せられましたね。
-はい、見ました。
この中の宮浦坑の中の労働者の名簿の中に、あなたは自分の名前を見付けましたね。
-本当にその当時の人に会ったような気持ちがしました。
この名簿を見てもらって、そのとき、この見開きのページだけで、あなたが一緒の班にいて、強制労働をさせられた人を何人か見付けましたね。
-はい、そうです。
あなたはこの名簿の中に自分の名前を見付けられて、そのときに突然泣き出しましたのを覚えていますか。
-はい、そうです。
あなたと一緒に宮浦坑で働いていた中国人労働者の人の中で死亡された方があると思うんですが、先ほど示した名簿の中で、その方の中の1人の名前を見付け出したということを覚えていますか。
-はい、覚えています。