地崎組東川日誌について(3)

 東川作業場の日誌が、初めの1カ月が欠けていることは、中国から連行されてくる過程で生死の境をさまよった中国人らが作業場でどのような扱いを受けながら暮らしたか明らかにならない問題を指摘したが、もうひとつ気になることがある。

 地崎組東川の事業場報告書は、「特記すべきは入舎当時疲労衰弱せる華労の健康回復増進を目的として隊員全員に対し十日間連続メタポリンの注射薬代のみにても金三〇〇〇円を支出せり」と書いているからである。事業場に到着した中国人にたいし、治療を施し、体力を回復させるべく注射もしたというのである。事実であるならば、中国隊が東川に来てからの40日間の日誌を企業としては残したであろうし、医師の派遣の記録あるいは薬代の請求書などがあるはずである。

 GHQ/SCAP文書すべてを見たわけではないので、断言することはできないが、地崎組関係の請求書や物品搬送書などの書類の綴りを見た限りではそうしたことを示す資料は見当たらなかった。もっとも、2月21日の地元の医師・栗城医師の往診では、「患者ノ手当及注射」をしたことが記載されており、「メタポリンの注射」がまったくの虚構ということもできない。現時点では、判断できず、疑問符をつけておく。