米軍横田基地の有機フッ素化合物問題 なぜ、基地内での立ち入り検査できないのか

   東京都が昨年1月、米軍横田基地から2キロ以内にある2カ所の井戸の水を検査したところ、泡消火剤などに使われる有機フッ素化合物の「PFOS」と「PFOA」を検出した。立川市の井戸からは水1リットルあたり1340ナノグラム、武蔵村山市の井戸からは143ナノグラムだった。都は「泡消火剤など基地由来の可能性はあるが、現段階では断定できない」としている。

   朝日新聞は、「横田基地では1993年、大規模なジェット燃料漏れが発覚。直後から都は、基地近くで都や個人などが所有する井戸18カ所をモニタリング地点とし、水質を調べてきた。PFOSとPFOAは対象ではないが、これらを含む大規模火災用の泡消火剤が過去に基地で漏出した、と英国人ジャーナリストが2018年12月に報道したことを受け、同局が調べた」と書いている。

 このジャーナリストは、ジョン・ミッチェル氏のことだろう。同氏は、沖縄タイムスの特約通信員として、2017年11月26日付で酒に酔った海兵隊員が沖縄の嘉手納基地で泡消火剤を噴射させ、一部が基地外に流出していたことが分かったと書いている。2018年10月27日には、「本紙が入手した海兵隊文書によると、2016年2月に同飛行場(嘉手納基地)内消防訓練地区の汚水を調査したところ、1リットル当たりPFOSが2万7000ナノグラム、PFOAは1800ナノグラム検出された」と報道した。このとき、米海兵隊は「普天間の9格納庫のスプリンクラー装置や不特定数の緊急車両などにPFOSとPFOAが含まれる泡消火剤を設置・搭載している」と説明したとしている。また、横田基地でのPFOS流出も書いた。昨年11月18日には、「施設からあふれた泡消火剤は明らかに海に排出されている」と記述した米軍報告書を入手している。

 東京都が横田基地周辺の井戸水の検査を始めたように、沖縄県の企業局(水道局)も嘉手納基地周辺の河川および井戸の水質調査をおこない、PFOSを検出した。私は、PFOSが検出され、問題になった後、北谷浄水場を見学した。活性炭で有機フッ素化合物を吸着させ、取り除いているが、使っているうちに吸着力が低下するため、取り換える期間を半分にして対応せざるを得ないが、その費用が大変だとのことであった。さらに沖縄県普天間基地周辺の河川の水質調査も行い始めた。

 沖縄県議会は、県の調査結果を受けて、2019年7月11日、首相や関係大臣あての意見書を可決し、①公共用水域・土壌などの環境基準値および水道水質基準値などを設定すること②PFOSなどにかかる汚染原因の究明のための調査を国は実施すること③「在日米軍施設・区域環境調査委託業務」の調査項目にPFOSなどを追加したうえで、米軍基地への立ち入り調査を行うこと④PFOS等対策に係る費用を負担すること―の4項目の実現を求めた。

 嘉手納基地を抱える北谷町議会も、「有機フッ素化合物による水質汚染に関し、環境補足協定第4条に基づき、速やかに沖縄県及び当該関係自治体による嘉手納基地内への立ち入り調査を認めること」および、日米地位協定の抜本的な改定を早急に行うよう求める決議を上げている。

 米軍は、現在も、沖縄県が検出したPFOSが米軍基地に由来することを認めていない。そのため、沖縄県が米軍基地内での調査を求め続けているが、いまだに実現していない。

 東京に話を戻そう。昨年12月、都議会で日本共産党の原田あきら議員が横田基地のPFOS流出問題を取り上げた。佐藤東京都技監は「国に事実確認したところ、泡消火剤が流出したとの情報は承知していないとのことだった」「基地への立ち入り調査については、有機フッ素化合物に関する国やWHOの基準が定められていないことなどから、現時点では立ち入りは困難」と答弁した。日米の間には環境補足協定があるが、しり抜けになっていて、PFOSが基地周辺で検出されても、米軍が基地由来であることを認めない限り立ち入り検査ができないということが浮き彫りになった。この問題でも日本の主権が奪われている。