辺野古新基地建設に伴うサンゴの移植問題(5)

(5)沖縄県は沖縄防衛局の移植許可申請で何を質したか

  沖縄県が2月16日付でいったん許可したオキナワハマサンゴの特別採捕許可は、その後、食害が見つかり、事態が大きく変わった。最終的には、許可の延長ではなく、期限が切れたのだから失効とし、申請のやり直しを県は防衛局に求めた。この経過については、別の機会に取り上げたいと思うが、県が特別採捕許可を出すにあたって、防衛局との間でどのようなやり取りをしたかを見ておきたい。

【県の最初の質問文書】 
1 採捕対象となっている動植物について。
採捕対象となっているオキナワハマサンゴについて貴局で把握されている最新の状態を写真等を用いて具体的に説明してください。また、当該サンゴの状態が今回計画されている試験研究に与える影響について貴局の認識をお示しください。
2 採捕の期間について
 採捕に必要な期間について貴局で把握されている当該サンゴの最新の状態を踏まえたうえで採捕の期間、その設定理由、環境監視等委員会委員の指摘事項等の整合性について具体的に説明してください。
3 使用漁具及び漁法について
 当該サンゴの採捕方法について、今回計画した方法を別の方法と比較検討した経緯があれば、その検討結果を示してください。また試験研究結果に及ぼす採捕方法の影響を事後に評価する基準について具体的に説明してください。
その他、試験研究計画について
1 採捕対象サンゴの運搬方法について
 今回計画した方法を、別の手段と比較検討した経緯があれば、その検討結果を示してください。また、試験研究結果に及ぼす運搬方法の影響を事後に評価する基準について具体的に説明してください。
2 採捕サンゴの固定方法について
 今回計画した方法を、別の方法と比較検討した経緯があれば、その検討結果を示してください。また、試験研究結果に及ぼす固定方法の影響を事後に評価する基準について具体的に説明してください。
3 採捕対象サンゴの移植先の海域について
 サンゴ礁の地形構造の面から評価したうえで通常時以外も含め当該海域の波あたりや流れの特性に関する貴局の認識をお示しください。
4 採捕対象サンゴの移植先で確認されているオキナワハマサンゴ5群体について
 貴局で把握されている最新の状態を写真等を用いて具体的に説明してください。

【2度目の県質問】
日付は12月15日。
Ⅰ 本件許可申請について。
1 貴職は本件許可申請において試験研究の目的をオキナワハマサンゴの移植技術の向上とされておりますが、貴職が認識されている移植技術とはどのようなものか、具体的に説明願います。
2 採捕対象となっているオキナワハマサンゴの状況について
 回答書によると貴局では、許可申請書提出前までに少なくとも3回の確認を行っていたにも関わらず、許可申請書ではその事実が反映されることなく、部分白化が進んでいる状況が確認されていることを前提とした試験研究計画となっております。本件許可申請で掲げられている試験研究の目的からすると、本件サンゴの状況が少なからず試験研究結果に影響を与えることは至極当然のことであり、そのため本件サンゴが部分白化が進んでいる状況にあるのか、または白化からの回復傾向にあるのか、もしくは白化から回復していると考えられるのかによって試験研究の計画はおのずと異なるものと認識しております。本件許可申請を行うにあたり、本件サンゴの最新の状況を反映させなかった理由について説明願います。
3 回答書の1―2
 本件サンゴの状態は、すでに移植しうる状態まで回復していると考えているとありますが、本件サンゴの現在の状況が、今回計画されている試験研究に影響を与える状態にあるか、貴職の認識を説明願います。
Ⅱ 採捕の期間について
 採捕の期間について採捕の許可申請書では、「当該オキナワハマサンゴ1群体は部分白化が進んでいる状況が確認されている。高水温が今後も継続する可能性があることを考慮すると、早急に移植することが有効と考えられる。以上のことを踏まえると当該オキナワハマサンゴ1群体については、上記期間に移植することが望ましいと考えられる」とあり、回答書では、「許可を得た後、準備期間及び海象解消を考慮したうえで移植作業を行うために必要な期間として設定したものです」とされております。採捕の期間の設定については、いずれの考え方をとられたものなのか、改めて説明願います。
Ⅲ 使用漁具及び漁法、運搬方法、固定方法について
1 貴職は、使用漁具及び漁法、運搬方法、固定方法という今回の試験研究における各種方法に関し、回答書において「今回の採捕方法による移植が成功すれば、今回の採捕方法は適切であったと評価できる」とされておりますが、何を持って移植が成功したと判断されるのか、具体的に説明願います。
2 また、適切であったと評価できるとする根拠について説明願います。
3 貴職は、「仮に今回の採捕方法による移植が失敗した場合であっても採捕方法が不適切であったのか、移植先が不適切であったのか等は、ただちに判明できないものと認識している」とされておりますが、何を持って失敗と判断されるのか、具体的に説明願います。
4 その一方で、「いずれにせよ当局としては、移植作業後、本件サンゴの生存状況等を確認するモニタリング調査を行うこと」としており、「当該調査結果や採捕の方法について移植後、環境監視等委員会に報告し、その意見を踏まえて検証する」とありますが、何についてモニタリングを行うこととされているのか、具体的なモニタリング項目と、その検証方法について説明願います。
Ⅳ 採捕対象サンゴの移植先について
1 許可申請書参考資料1の6ページにおいてオキナワハマサンゴの移植にあたっての必要な環境配慮のなかで「特に本種は内湾的環境に生息し、波高が低い場所に分布することから波浪、潮流の影響を受けにくいと考えられる場所を選定するよう留意する」と指摘されております。本種は移植先とされている海域は、サンゴ礁における自然地理学的には、前方礁原(礁堡)にあたると認識しており、うち湾的環境には当たらないと理解しておりますが、貴職の認識を説明願います。
2 貴職は、回答書において別添3の資料を示すことで本件サンゴの移植先の固定位置について荒天時の状況を勘案しても適切なものと考えられるとされておりますが、本職は、当該資料の意味について移植対象種の生息環境を考慮してその適地を移植先と選定したうえで、さらに移植したサンゴ類の生存率低下に影響する高波浪等の影響を緩和する措置として検討されたものであり、移植先としての海域選定の直接的な考慮要件ではないと理解しておりますが、貴職の認識を説明願います。

 これら二つの質問は、通り一遍の審査ではなく、法令にもとづいて一つひとつ厳格に判断する姿勢が貫かれていることを感じる。このことは、はっきり認識されるべきだろう。残念ながら、現段階では、防衛局の回答を入手できていない。しかし、環境監視等委員会で配布されている防衛局資料からは、県の質問にはまともに回答できなかったであろう。県の担当職員も「一般的な回答しかなかった」と述べているから、まともな回答と言えるものがなかったといいて、間違いはないだろう。そのことは、食害を受けたオキナワハマサンゴの件で沖縄防衛局は、採捕期間の延長を求めたが、県に環境監視等委員会の助言を得るべしと促され、県の言うことを受け入れざるを得なくなった。ここに、県の徹底審査が端的に表れている。
 防衛局にしてみれば、1件のサンゴ移植許可に何カ月もかかる、1万7000あるというサンゴの移植に何年かかるのかという深刻な問題に発展せざるを得ないかもしれず、大きな不安をもったことであろう。むろん、これまで何度も違法無法を重ねてきた防衛局が、もうサンゴの移植をやめたといって、埋立に走るかもしれない。そうなればいよいよ政府は、深刻な事態に立ち入ることになる。
 サンゴをまもるために採捕許可をしてほしくないとの思いは当然だが、国の違法無法とどうたたかうか、その角度から県行政を見る視点も必要と思う。