民間人戦争被害者はなぜ放置されてきたか 瑞慶山茂弁護士の講演

 「集団自決」をめぐる教科書問題を機に、沖縄の情報発信に取り組んできた「沖縄戦首都圏の会」が9月8日、文京シビックセンターで瑞慶山茂弁護士講演会を開いた。

 瑞慶山氏は、沖縄戦と南洋戦における日米軍の残虐非道な加害行為と被害実態を詳しく語ると共に、裁判所が被害事実を認定しながら、被害受忍論や国家無答責論に逃げ込んで、請求を棄却し、司法の役割を放棄した判決の不当性を批判した。

  瑞慶山氏は、パラオ生まれで、1歳の時に避難船が沈没させられた中、生還した体験を持つ。沖縄戦被害救済のため沖縄民間戦争被害者の会をつくり、裁判闘争を進めるととともに、戦災者救済のため、新法律制定運動を進めてきた。

  講演の骨子は、

1 沖縄戦・南洋戦被害-日米軍の残虐非道な加害行為と被害実態

2 国の戦争責任を法的に追及するために沖縄戦国賠訴訟を提起

3 請求棄却判決と不服申し立て

4 南洋戦・フィリピン戦国賠訴訟の提起

5 民間人救済法制定運動の現状

6 未だに国が戦争被害者救済しないことの重大な意味

である。

  瑞慶山氏は、日本の援護法体系について、次のように解説した。

  <先の大戦による戦争犠牲者は、「我が国の軍人軍属や一般邦人はもとより、戦火を交えた国々の兵士、さらに戦場となったアジア諸国の多数の人々など」に及んだ。このうち日本人に対しては、旧厚生省(現厚生労働省)を所管とする援護行政上、1952年「戦傷病者戦没者遺族等援護法」以降、十指に余る関連法が制定された。第二次世界大戦以降、欧米諸国(米・英・加・仏・旧西独・伊・奥)の戦争犠牲者補償制度では、国民平等主義と内外人平等主義がほぼ共通の特徴とされる。国民平等主義とは、軍人と民間人を区別することなく戦争犠牲者に平等な補償と待遇を与えることであり、内外人平等主義とは、自国民と外国人を区別することなく平等な補償と待遇を与えることを意味する。

一方、日本の援護立法体系では、空襲犠牲者等をはじめとした民間人犠牲者と旧植民地出身者などの外国人犠牲者が基本的に適用対象から除外されており、奇しくも、欧米諸国の補償制度で通例となっている二大特徴と正負相反する形で重なる。日本の補償制度では、「国家との身分関係」が要件とされ、また「内地すなわち銃後」との認識に基づき、一般戦災者は援護体系から除外され、外国人犠牲者の問題については、講和条約や二国間条約等により「解決済み」とするのが日本政府の立場である。>

  さらに、質疑応答の中でも、「日本の援護立法の体系で国家との身分関係法という要件があって、その要件を満たす場合は補償を認める、身分関係と言うのは、軍人、国家から雇用されていたもの、あるいは軍属、国家と関連ある者という限定がついています。そうすると、民間人はそこに入らないように、仕組みとしてなっているんですね。なんでそういう条件になったかというと、戦後できた法律ですので、国として戦争被害にたいしてどういうふうに向き合うかという基本的な考え方がある」「昔の考え方が根底的に維持できるという発想があったと思うんですよ。明治憲法下の考え方を維持するとすれば、国との特別の関係、国家が国民より上なんだと、その上に立法をしています。これに正当な理由があるかというと、日本国憲法の体系からいうと、法の下の平等に反し、正当な理由にはならない。日本の現行憲法では平等主義ですから、理由にはならない。憲法違反だという主張を沖縄戦訴訟でも東京空襲訴訟でも断固として主張してきた」と見解を述べた。

 講演を受けて日本被爆者団体協議会の木戸季市事務局長は、被爆者援護法が制定されていない根本に、戦争犠牲受忍論と国による国民分断政策があることを指摘し、原爆被害者と空襲被害者、沖縄戦被害者が共同して国に戦争責任を取らせようとよびかけた。

 瑞慶山氏が繰り返し強調したように、戦争被害は国家災害であり、国に責任がある。原爆被害者も空襲被害者も、沖縄戦被害者も、国の分断政策に対し、社会的連帯による共同で、民間人戦争被害者にたいする補償制度を国につくらせることが求められる。