伊江島の米軍基地機能強化(4)

  伊江島の米軍基地機能強化についての続きを書く前に、今日の判決について少し書き留めておこう。「不作為の違法確認請求事件」である。
 翁長知事は、判決要旨を読んで唖然としたという。県の敗訴というだけではなく、その理由づけ、裁判所の判断があまりにも粗雑で、支離滅裂であることに、ただ驚くしかなかったのだろう。
 辺野古に新基地をつくることに一地方自治体が口を出すなとあからさまにいっていることに、それが端的に表れている。

 「国防・外交に関する事項は本来地方公共団体が所管する事項ではなく、地域の利益にかかわる限りにおいて審査権限を有するに過ぎない。そして、地方公共団体には、国防・外交に関する事項を国全体の安全や国としての国際社会における地位がいかにあるべきかという面から判断する権限も判断しうる組織体制も責任を負いうる立場も有しない。・・・住民の総意であるとして40都道府県すべての知事が埋め立て承認を拒否した場合、国防・外交に本来的権限と責任を負うべき立場にある国の不合理とは言えない判断が覆されてしまい、国の本来的事務について地方公共団体の判断が国の判断に優越することにもなりかねない。・・・国の説明する国防・外交上の必要性について、具体的な点において不合理であると認められない限りは、被告(沖縄県)はその判断を尊重すべきである」
 
 判決文(判決要旨)をほとんどそのまま抜き書きした。「40都道府県」もそのままである。判決文には往々にして誤植がみられるが、まさかこういう事実関係にかかわるところを書き間違えることはないだろうから、この裁判長は、地方自治にたいしてこの程度の関心しか持っていないということだろう。
 この引用個所だけでも批判しなければならないことはいくつもあるが、裁判長が和解案をしめしたときに、国と県は真摯に協議を、と求めたことは、この個所ではどうなっているのだろうか、そのことが真っ先に頭に浮かぶ。協議をしなければ物事は解決しないよ、といって勧告したのだったが、ここでは、国防に関しては一地方公共団体の判断が国の判断より優先されてはならないと言っているのである。これは極めて大きな矛盾だ。辺野古が唯一であり、沖縄県は黙って従え、というのでは、国と県の協議は、実質的に意味を持たないことになる。
 普天間基地の「移設」にあたって国は、自然環境をまったく考慮にいれず、ただ米軍がキャンプ・シュワブに海を埋め立てて造りたいといったからそれをそのまま認めた。それにたいして、仲井真知事(当時)でさえ、初めは環境問題がクリアできないと拒否していた。それを札束でひっくり返らせた。だから、翁長知事は、辺野古が唯一というだけでは、沖縄県民は納得しませんよと、昨年の国と県の5回の集中協議で繰り返し、納得のいく説明を繰り返し求めたのだった。
 翁長知事は、基地をつくるときに、皇居とか琵琶湖、あるいは宮城県の松島なんかにつくろうとはだれも考えないでしょ、歴史や文化がある。基地だからどこでもつくれるというわけではない、そう語ったことがあった。辺野古も同様だと。ジュゴンもやってくる。未発見の生物がまだたくさんいるのではないか、それくらい生物多様性のある大浦湾。沖縄県民の財産であるだけでなく、世界的財産と言われる大浦湾。シュワブ内で、碇石も見つかり、琉球王朝の文化史研究上、注目されはじめた地域でもある。それゆえ辺野古は、さけるべきではないか、こういう事情を明らかにすることは地方自治体の責務だ。そして、正当にも翁長知事は、裁判の陳述でそう主張した。
 裁判長は、この主張を完全に無視し、大浦湾が持つ自然環境についてはすっかりそぎ落とし、海兵隊の一体的運用上、辺野古しかないなどと判断をしているのである。「沖縄の地理的優位性について」「海兵隊の一体的運用性について」「普天間飛行場の返還と本件新施設等との関係について」などの展開内容は、まるで防衛大臣の主張のようだ。
 
 さて、伊江島に戻ろう。
 伊江村の島袋村長は、米軍岩国基地に来年配備されるF35Bが伊江島で訓練するといわれている問題について、「今後三連協があるときに、F35の部分だったら伊江村も一緒に行動できる道はないか、その辺の部分をやっていきたいと思っていますし、議会で言ったように三連協と伊江村でそのへんの取り組みをできればいいのかなと、思っております」と語った。
 島袋村長は、決してF35Bの伊江島での訓練を止められるとは思ってはいない。しかし、いま以上の負担は、村民の代表として断る―こういう立場だ。
 ここで基本的なこととして確認しておきたいのは、現在、訓練を認めているハリアーの後継機がF35Bと米軍は主張しているが、まったく別ものであり、受け入れることはできないと主張することはできないのかという問題がある。オスプレイが頭上を飛ぶ体験をした人はだれもがオスプレイとヘリは全く違うという。それがピンと来ないなら、ケイタイとスマホの違いと思えばいい。エンジンの大きさも倍になり、騒音もひどくなるという。ところが島袋村長は、防衛局は、F35はハリアーの音より小さいという説明をしているというのである。岩国の市長も正確なデータをアメリカに出させるといっている。防衛省の説明は、きわめて怪しいのだ。
 もう一転、島袋村長は、切り替えの過程はなんら示されておらず、並存する時期が続くに違いないと警戒している。並存する期間は、明らかな負担増になるだろう。
 だからはっきりF35Bを拒否している三連協と、一緒に行動できるところがあればやりたいというのである。
 いつまでも国のいいなりになっていては、いつなんどき、沖縄が捨て石にされるかもしれない、そういう思いがどこかに働いているのだろう。