辺野古裁判で問われていること 緊急報告会から

 辺野古訴訟支援研究会主催の緊急報告会が24日、パレット市民劇場で開かれた。辺野古新基地建設に伴う大浦湾の埋め立て承認取り消し処分を是正するよう国が指示したことにたいし、沖縄県知事が従わないことは、違法であると訴えた裁判が過日結審し、9月16日に判決が出される。現在、裁判長は、執務室で判決文を作成中であり、名古屋大学の紙野健二教授は、「集会でたくさんの人が正論を述べれば、裁判官の耳に入る。正論は必ず人を動かす」と述べ、裁判支援を呼び掛けた。 
 翁長雄志知事も登壇し、「裁判を通して気づいたことだが、日本政府は地方自治をまったく理解していない。地方自治法を無視しながら物事を進めている」と国の姿勢を批判した。 
 また、竹下勇夫弁護団長は、代執行訴訟での和解から今日までの経過と裁判の争点について簡潔に説明し、違法などと評価されるいわれはないと断じた。
 龍谷大学の本多滝夫教授(行政法)が「辺野古裁判の焦点―地方自治、民主主義、司法の真価」と題して基調報告を行った。

 以下、会場で配布された本多教授のレジュメをそのまま紹介する。
はじめに
○なぜ、ふたたび裁判になっているのか ?
政府は、敗訴のおそれがあったために取り下げた代執行の裁判のやり直しのつもりでいます。しかし、和解と国地方係争処理委員会の審査を経た今回の裁判は、前の裁判のやり直しにはとどまりません。
○〈法の支配〉ってなんだ ?
政府の指定代理人は、「この訴訟は、3月に裁判所が提案した和解条項に従っておこなわれるものであり、法の支配の理念の下、双方が堂々と、あるいは淡々とすみきった法律論を述べあって証拠を出しあうものだと思っている。…裁判所においては、このような経緯を踏まえて頂き、早期に結審をされて、司法判断を頂くということで、この法の支配をすみやかに実現して頂くようお願い申し上げる」と陳述しています。しかし、そこでいう〈法の支配〉とは、〈法に依る支配〉です。〈法の支配〉の意義、〈法の支配〉を実現する裁判所の役割に対する正しい理解が求められます。


1 裁判で争われていること~2つの争点
○翁長知事にはそもそも国土交通大臣の指示に従う義務があるのか。
 翁長知事が行った埋立承認取消処分は、そもそも沖縄防衛局がした埋立承認の出願が公有水面埋立法に定める基準を充たしていなかったにもかかわらず、承認をした仲井真前知事の判断に誤りがあったことを理由としています。埋立承認取消処分には「法令の規定に違反している」ところはありません。したがって、翁長知事には、埋立承認取消処分を取り消せという国土交通大臣の指示に従う義務はありません。
○かりに翁長知事に指示に従う義務があるとしても、その義務に従って翁長知事が埋立承認取消処分を取り消すべき時期がすでに過ぎてしまっているのか。
 不作為の違法確認訴訟は代執行訴訟と同様に例外的な訴訟で、そもそも単に地方自治体が是正の指示に従わない状態にあるだけでの利用は予定されていません。国と地方公共団体との紛争解決の一手段としてこの訴訟制度ができました。そうした制度趣旨からすれば、協議という紛争解決への手段があり、その趣旨を示した国地方係争処理委員会の決定に沿って沖縄県が努力している現状は、なおも「相当な期間」が経過したものとはいえません。


2 民主主義と地方自治、そして〈法の支配〉
○民主主義と地方自治自治権とはどういう関係にあるのか。
 政府の権力を民意に基づくものにするのが民主主義です。しかし、多数決は往々にして多数者の横暴を招きます。それを抑え、少数者の意見を尊重するために、民主主義国家では権力の分立と基本的人権の保障が必須です。このような民主主義を立憲民主主義といいます。 もっとも、民主主義の下での少数者は、一般的には、明日には多数者となる可能性があるので、その限りでは個々に基本的人権を保障すれば足ります。しかし、特定の地域に住み続けている者が将来的に全国的な多数者になることはありません。このような固定的な少数者には全国的な多数者によっては奪うことができない権利を認めることが必要です。こうした地域に固定された国民=〈住民〉の集団的な権利が〈自治権〉です。日本国憲法は、立憲民主主義の一環として、〈住民〉に〈自治権〉があることを〈地方自治の本旨〉として保障しているのです。
○民主主義・地方自治と〈法の支配〉とはどういう関係にあるのか。
 立憲民主主義の下での裁判所の基本的な任務は、〈法の支配〉を実現する機関として人々の基本的人権を守ることを通じ、〈多数者〉による支配を抑止し、少数者の意見を尊重するように民主主義を十全に稼働させることです。同様に、立憲民主主義の下での地方自治において〈法の支配〉を実現するとは、裁判所が〈自治権〉を守ることで全国政府の横暴を抑止し、少数者である地域の〈住民〉の意見を尊重するように民主主義を十全に稼働させることです。


3 裁判所がこの裁判で発揮すべき真価
○〈裁量判断〉への敬譲を通じて、沖縄県の〈自治権〉を保障すること
 翁長知事の埋立承認取消処分は、〈自治権(自治行政権)〉に基づいた判断によるものです。裁量権が認められている処分の審査をする場合において裁判所が払うべき敬譲の程度では足りません。国土交通大臣は、沖縄県知事の公有水面埋立法の解釈・運用が誤っていることが〈明白〉である場合にかぎって、「法令の規定に違反している」と認めることができる、という程度まで、沖縄県知事の判断に敬譲を払うべきです。裁判所は、このような観点から国土交通大臣の指示を検討すべきです。
○〈法の支配〉を実現し、日本の民主主義の回復に努めること
 日本において〈自治権〉を尊重した民主主義を回復し、確立するために、沖縄県と政府とが対等な関係で協議を尽くすことができるような環境を調えることです。現実において沖縄県と政府との間に力の差異があることを前提とすれば、対等に協議ができる環境を調えるためには、辺野古の埋立てが既成事実となることを防ぐことが肝要です。裁判所には、このような現状を踏まえた、立憲民主主義に導かれた〈法の支配〉の理念に基づく判断が求められています。


おわりに
 代執行訴訟の和解で捲かれた種は、国地方係争処理委員会の審査を通じて芽吹きました。これを大きく育てるのが、今度の裁判です。裁判所は、日本の民主主義を回復し、政治への信頼を取り戻す機会を逸してはなりません。

参考
紙野健二・本多滝夫編 『辺野古訴訟と法治主義行政法学からの検証』(日本評論社2016年)
本多滝夫編『Q&A辺野古から問う日本の地方自治』 (自治体研究社 2016年)