瀬長亀次郎の沖縄違憲訴訟 人民党機関紙から(2)

(瀬長亀次郎の東京地裁での法廷陳述のつづき。)

 それ(米軍が瀬長氏の渡航申請を拒否した理由書)は1965年3月1日付である。その骨子は次の通り。


 共産主義路線の追随者として知られている瀬長亀次郎氏の出域申請は好意的に考慮されなかったこと、沖縄基地は反共基地であること、米軍基地と米軍隊は、西太平洋地域を侵略しようとする共産主義者の陰謀を粉砕するものであること、瀬長氏はこの陰謀の積極的な活動者であること


などなどをあげ、最後に出域を拒否したアメリカの行為は、


 すべての自由を愛し、平和を愛する国民に支持されるであろう


と結んでいた。
 これにたいして私は時を移さず、沖縄人権協会にも提訴した。同協会はただちに理事会を開いてその不法不当に人権を侵害するものであると決定して、立法院や「行政府」、高等弁務官宛てそれぞれ要請書を出した。
人権協会は、


 瀬長氏の渡航拒否は同氏が共産主義の同調者であり、同氏の出域は米軍の安全保所を害する恐れがあり、軍事機密に基づいてなされた、とその理由を明らかにしているが、今回の瀬長氏の渡航目的が「アジアの平和のための日本大会」に出席するものであり、何らそのことが犯罪的行為でないものである以上、同氏の思想、信条の如何によってその渡航を拒否することは同氏の基本的人権を不当に制限するものであって、人権に関する世界宣言第15条第2項の規定にも違反するものである。


 この理由を示しての私の渡航拒否申請拒否事件は、当然のことであるが、軍事権力者の意図に反して県民の憤慨を買った。私は沖縄県祖国復帰協議会(復帰協)加盟の人民党委員長である。復帰協が渡航拒否による損害賠償事件として東京の裁判所に訴訟を起こすことをきめたとき私はそれに進んで応じた。理由はいろいろある。その一つ。日本国憲法は、
 1、何人も公共の福祉に反しない限り居住、移転および職業選択の自由を有する(第22条)
 2、思想および良心の自由は侵してはならない(第19条)
 3、集会、結社および言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する(第21条)。
などをおかしてはならない国民の権利を規定し、保障している。サンフランシスコ「平和」条約第3条によってアメリカ帝国主義は22年にわたって沖縄を占領支配しているが、これは日本国憲法に照らしても違法であり、無謀であると私は信じて疑わない。

 

[筆者の蛇足]米占領下の沖縄では、これら基本的人権を保障する日本国憲法が適用されず、高等弁務官の一存で布令が出され、沖縄人民の意思はふみにじられた。そうしたなかで「日本国憲法に照らして違法」と日本の裁判官に訴えたというところに目を向けたい。