安保法制施行の日に考えたこと(4)

島袋恵祐さんの発言のつづき

 確かに訓練はきついものでした。3日も寝ないでひたすら訓練をすることもありました。しかし一人で訓練をするわけではなく、みんなで訓練をするので頑張って乗り切ることはできます。自衛隊の中でやはり厳しいのは人間関係ではないでしょうか。自衛隊は、社会です。上司は絶対です。仕事以外でも続きます。結婚していない隊員は基地の中での生活が続きます。そこでは先輩たちからしごきもたびたびあります。

 海上自衛隊の船の中ではもっと残酷なんだろうと私は思います。一度基地から離れてしまえば、船の中に閉じ込められた袋のネズミ状態です。さきほどお話をした宮崎の女性の方が起こした裁判とは別に、護衛艦「たちかぜ」でいじめにあい、自殺して遺族が裁判を起こした「たちかぜ」裁判があります。自殺に追い込まれた男性隊員は、船の中で上司にモデルガンで撃たれ、クレジットカードを彼の名義でつくらされ、そのカードを上司が使って借金を負わされるなど、ひどいいじめが実際におこなわれました。私が1年半いた千葉の基地でも2人が自殺で命を落としています。自衛隊員の自殺は一般社会と比べて本当に多いです。
 昨年の戦争法案の論戦が進めば進むほど、自衛隊の実態が浮き彫りになってきました。部隊の隊長が隊員に遺書を書かせて、ロッカーにしまっておけと命令したことが判明しました。万が一、任務中に亡くなった場合、殉職扱い。名誉ある死として扱われてしまう。もし不審な死としても、本人が遺書を書いて覚悟を持った死で、遺族は手出しをできなくなるのではないでしょうか。責任逃れの自衛隊の防護策だと思います。
 現役自衛官の家族から不安の声がたくさん出ました。戦争法が通ると息子もしくは夫が戦場に行ってしまわないかとても心配だと。現役自衛官は、けっして人を殺したいと思って入隊したわけではありません。人を殺していいと思っている人は一人もいないと思います。私がいた部隊の同僚、先輩がみんなそうでした。生きていくために自衛隊員になる。戦争法の成立で一番不安に思っているのは現役の自衛官だと思います。
 今年の自衛隊受験者数は減っているとニュースになりました。沖縄の自衛隊員募集事務所のホームページを見たのですが、そこには第5次募集中と掲載されていました。自衛隊の試験は9月に行なわれて、そして11月に部隊配属となりますけれども、11年前、私が入隊した時は2次募集はありませんでした。それが、3月になっても募集している。自衛官を志願させる人が減っていることが分かると思います。防衛大学校を卒業して自衛隊に任官することを拒否する卒業生が増えたことも報道されました。防衛大学校を卒業した人はエリートコースを進み、幹部になります。戦争法が施行されて、アメリカがやる戦争に同行して、そこで人を殺せと命令できるでしょうか。自衛官も1国民です。自衛官だからといって、命の尊厳を軽く見てはいけません。
 安倍政権は、国民の人権を蹂躙しています。兄・英吉は、国家の安全にかかわるということで、事故の内容を黒塗りにされ、名前さえもが黒塗りにされました。一人の自衛官の命も守れなかった国が、国民を守れますか。英吉は、国に殺されたと私は思います。また、兄・英吉のような犠牲者が出てしまう。これ以上、犠牲者を出してはいけません。しかし、まだ戦争になっているわけではありません。声を出し、戦争法を止めようではありませんか。多くの国民、学生が立ち上がっています。声をあげています。命、人権をないがしろにする政府は断じて許せません。ともにがんばりましょう。

 

 島袋さんが最後に言っているように、自衛隊のなかで行われていた暴行、いじめがここ数年、裁判という形で社会の表に出てきました。

 「組織である以上、完全に回避することはできないが、全体からすればわずか」ーそういうような言い方をする人もいます。教育、福祉、医療、警察・・・まさかと思うようなところで信じられない事件が起こっていますので、そういう見方もあろうとは思います。しかし、イラク戦争とに自衛隊という緊張のなかで表面化したという事実をどう見るのかということがあります。それにとどまらず、島袋さんのお兄さんの死という事実を前にしたときに、彼の死と自衛隊との関係を深くとらえるべきではないか、そう思わずにはいられません。二十歳の命の叫びをどう受け止めるのか、そこが問われると思います。

 「国家の安全」といって何もかも黒塗りする、ここに「組織ぐるみの犯罪」とも言うべき、隠ぺい体質が顕著に表れています。上官らが真実を語らなかっただけではありません。

 旧日本軍では、兵士として鍛えると称して、徹底的な制裁が加えられました。そればかりか中国での戦場では、人を殺す恐怖心を払しょくするために「刺突訓練」さえ行われました(運動場に柱をたて、捕虜を縛る。それを的にして、銃剣を構えた新兵に突撃を命じる)。

 元日本軍兵士から聞いた話を紹介します。

 「戦後、数年してからだったが、知り合いがお寺に青竜剣(中国剣)を奉納した。どうしたと聞いたら、ひどくうなされるので、怨嗟を鎮めてもらうと言っていた。中国の戦場でずいぶん中国人を切ったらしい」

 ベトナムの戦場からの帰還兵の中にも、戦場のトラウマが多く見られるといいます。元兵士が人間として社会を生きていくとき、戦場の記憶が呼び覚まされるのでしょうか。その詳しい考察は、別の機会に行うとして、戦争に参加し、軍隊の一員として行動できる「兵士」にするための訓練は、戦争をしないはずの自衛隊でも行うのです。そういう組織において人権はどう扱われるのか。「一人の自衛官も守れない自衛隊が、日本を守れるはずがない」―島袋さんの訴えが心に響く。 
 東日本大震災で多くの被災者から信頼を得た自衛隊ですが、こういう素顔も併せ持っています。この素顔を引き出してしまうのが戦争法でしょう。