中国での強制連行訴訟の広がり(2)

日本国内での戦後補償裁判は、日韓請求権協定による韓国国民の請求権放棄を理由として日本の裁判所が韓国人の請求を棄却したことにつづき、2007年の最高裁西松訴訟判決が日中共同声明による中国国民の請求権放棄を理由として中国国民の請求を棄却したことで、日本での訴訟は収束に向かった。

高木喜孝弁護士は、西松判決を<「国家無答責の法理」や除斥期間・時効などの日本民法上の暴論を打ち破った大きな成果>であるとその意義を確認しつつ、「条約による国民の請求権の放棄」を理由として棄却したことを「大きな壁」と表現し、<戦後賠償訴訟の「第1の戦略的攻勢限界」>とした。

高木弁護士は、この限界を突破したのが2012524日の韓国大法院判決だとする。<「被害者の属する国の裁判所」は国際人道法に対する重大な違反による自国民被害者の救済に敏感であり,元々極めて多義的であった平和条約の「請求権放棄」条項の解釈において、自国民被害者の国際人道法上の権利を優先させるであろう。これこそ「冷戦」体制の呪縛から解放された「世界市民」の思想の現れとみるべきである>と解説する。

ただ、韓国政府は、韓国大法院判決の後も同協定に関する政府解釈を大きく変更する姿勢はまだなく、韓国政府には日韓請求権協定 第3条の仲裁条項を発動すること、日本政府にはICJ提訴の方法があるが、双方ともその動きが見られない。勝訴したこれまでの韓国訴訟は日本訴訟の再現であったが,それ以外の新訴の提起には全く新たに準備しなければならない。一層膨大な人力・費用が必要であり,現下の状況ではその体制を作るのは困難と見られ、個別判決の執行の限度に留まるおそれが強い。

こうした点を踏まえて高木弁護士は<これは「第2の戦略的攻勢限界」と呼ぶべき壁である>と指摘する。

中国の裁判では、この「第2の戦略的攻勢限界」を突破する可能性があると高木弁護士は述べている。

報道では、中国では原告に加わることを望む被害者・家族は1000人を超え、訴えられている日本企業は現在、三菱マテリアル・日本コークスの2社だが、さらに他の企業も対象になる可能性があるという点を考慮されているのだろう。

高木弁護士の解説を紹介したが、若干、不正確になっているかもしれない。高木弁護士の解説は、戦後補償問題を考える弁護士連絡協議会(弁連協)の「事務局通信第123号」で読むことができます。http://sengohoshou.jp/report.htm