中国での強制連行訴訟の広がり(1)

中国では強制連行・強制労働をおこなった三菱マテリアルにたいする提訴の動きが広がっています。きょうは、2日に石家荘市の平安公園で開かれた「訴状提出集会」のもようを報じた「しんぶん赤旗」と朝日新聞の記事を紹介します。あすは、この広がりの意義についてちょっと考えます。

 

 強制連行中国149人提訴 三菱マテリアル相手に中韓が連携 河北省で集会

20140303 赤旗

【石家荘(中国河北省)=小林拓也】戦時中に日本へ強制連行され過酷な労働を強いられた中国河北省出身の被害者と遺族の計149人が2日、日本企業の三菱マテリアル謝罪と賠償を求める訴状を河北省高級人民法(高裁) に提出しました。中国では、強制連行問題で日本企業を相手取り裁判所に訴状を提出する動きが広がっていますが、約150人の原告は最大規模です。

原告は、強制連行で亡くなった被害者に200万元(3200万円)、帰国できた被害者に150万元(2400万円) の賠償を要求。総額は22700万元(38億円) です。また、日中両国の新聞への謝罪広告の掲載、教科書への記載、強制連行の記念館の設立などを求めています。法廷が訴訟を受理するかどうかは未定です。

原告団には2人の元被害者も。李運徳さん(88)は「つらい経験だった。裁判で正義を取り戻したい」と語りました。

訴状提出に先立ち、原告と支援者ら約150人は、石家荘市内の公園で、亡くなった被害者を悼む集会を開催。遺族代表は「謝罪と賠償を求める道のりには困難があるが、私たちはあきらめない」と訴えました。

訴状提出後の集会には、戦時中に三菱重工業に強制徴用された問題で裁判をたたかっている韓国の訴訟団代表も招かれて参加。両国の戦争被害者の協力を決意しあいました。

韓国訴訟団の李圭梅(イ・ギュメ)さん(63)は「今後必要なことがあれば中国側を助けていきたい」と発言。李照子(イ・ヒジヤ)さん(70)は「両国が相互に協力して活動していこう」と呼びかけました。

韓国の張完翼(チャン・ワンイク)弁護士は「韓国の経験を伝えて、中国側を支援したい。両国の協力で、日本政府と企業に圧力をかけたい」と述べました。

 

 

 強制連行 中韓の原告連携 日本企業など相手 訴訟の動き拡大

20140403朝日新聞

戦時中に日本に強制連行されたとして、中国人元労働者らが中国で日本企業などを相手に損害賠償訴訟を起こそうとする動きが広がっている。2日には河北省石家荘市で149人が訴状を提出。韓国人元徴用工の遺族らとの連携も始まった。各地の裁判所の対応が焦点だが、事態の行方は中国当局にも見えていない。

2日朝、旧日本軍の捕虜収容所があったとされる石家荘市内の公園に中国人元労働者と遺族ら150人以上が集まり、記念碑に祈りを捧げた。

その中に韓国から来た元徴用工の遺族、李圭梅さん(63)の姿もあった。韓国で三菱重工業を相手に損害賠償を求め、昨年に勝訴した原告団メンバーだ。李さんと支援者は、中韓の元労働者らが日本で起こした批判を支援してきた在日華僑の仲介で訪中。李さんらの弁護を担当した張完翼弁護士は「中韓で法体系が異なるが、証拠収集や争点整理の仕方など、我々の経験を中国の弁護士と共有していきたい」と述べた。

 集会参加者は河北省高級人民法院(高裁に相当)に移り、三菱マテリアルを相手に損害賠償を求める訴状を提出。連行先の日本で死亡した7人に1人当たり200万元(3300万円)、中国に帰国した142人に同150万元(2500万円)の総額22700万元(375千万円)を要求した。

3月、北京の原告団の訴えを北京市1中級人民法院(地裁に相当)が、中国で初めて受理した。以来、河北省唐山市、同省槍州市、同省衡水市でも元労働者らが地元裁判所に訴状を提出。河南省などでも提訴を目指す動きがある。

中韓の連携を働きかけた旅日華僑中日交流促進会の林伯耀代表は「日本政府や企業が誠意ある対応をしてこなかったことが問題の根底にある。北京の裁判所が受理しなくても、韓国で勝訴した経験を元に中国各地で訴えを起こす計画だった」と強調する。

今後の焦点は、中国各地の裁判所が北京と同様に原告らの訴えを受理するかどうかだ。市民運動の政治化を強く警戒する共産党政権は、約39千人ともされる強制連行被害者と遺族が各地で権利を主張し始めることへの懸念も抱える。

国司法省の元幹部は「裁判所が現実的な判決を導き出すのは極めて難しい。司法の問題である以上に外交問題だ。政治による解決以外に、出口は見いだしにくい」と話す。

(石家荘=林望)