愛知における強制連行問題の取り組み(20)

強制連行被害者の遺族が連行企業に直接、解決を要求した今回の交渉で、解決に向けた交渉のテーブルができたわけではありませんが、交渉をしたことの意義はけっして、小さくはないでしょう。全国でとりくまれた中国人強制連行事件の一連の裁判運動は、西松安野などの最高裁での原告側敗訴で終了した後に行われた交渉であり、裁判を通しての解決の道は閉ざされたが、強制連行・強制労働問題はいまなお未解決であること、そして解決を求めている被害者・遺族の声に耳を傾け、その願いを日本はきちんと受け止めるべきであることを主張しています。

 今回の岩田地崎建設側代表の発言には、要求内容を理解したこと、死者への哀悼の意の表明、業界団体を通じての解決の動きがあれば積極的に関わる姿勢の表明等、従来の同社の姿勢と比べて積極的な変化が見られます。この点にかんして支援する会の南守夫氏は、「日本での裁判終了後の新しい動き、特に今年7月以来の韓国における朝鮮人強制労働問題に対する訴訟と日本企業への賠償命令を伴う判決の動向があると考えられる」といいます。交渉がおこなわれた時期(2013年9月)は、新日鉄住金(ソウル高裁、710日)及び三菱重工(プサン高裁、730日)への賠償命令が相次ぎ、これにたいし日本の企業も賠償に応じる意向と報じられていた流れがありました。

交渉から約一カ月後、岩田地崎建設社長名の「ご回答書」(102日付)が「支援する会」に届きました。死者への哀悼の意の表明などはありましたが、謝罪及び補償要求への完全な拒否回答でした。この間、韓国の裁判所の判決を受けて日本の企業はどう対応するかということに関して、日本の一部メディア、財界、日本政府は、企業は賠償に応じるべきでないという立場を表明しましたし、当該企業も韓国の裁判で争う立場を明確にしました。こうした流れを見ると、岩田地崎建設は、交渉をおこなった時点では、韓国での訴訟結果に対する日本の世論や政府の対応、中国はじめ諸外国の反応等を慎重に観察しているという段階にあり、補償には応じないことを繰り返しつつも、業界でのなんらかの動きがあれば対応するとしていたが、その後の流れを見ての文書回答だったのでしょう。