愛知における強制連行問題の取り組み(2)

「提訴書」とは聞きなれない言葉です。「提訴」という言葉は、日本では訴訟を起こすことを指しますが、5人の中国人生存者が強制連行企業に送った文書は、裁判を前提にしたものではありません。あくまで企業との直接交渉で和解を目指そうとするものです。中国では、公の機関にたいしきちんとした形で訴えるときに出す書類を「提訴書」というのだそうです。

 

【提訴書

 岩田地崎建設に対する生存者の要求文書

提訴書

岩田地崎建設株式会社御中

19443 月、我々5名の中国人(男性)は日本軍に強制連行されて中国を離れました。相次いで貴社(当時名称:株式会社地崎組)に所属していた北海道の伊屯武華と置戸及び平岸そして、愛知県大府の作業所で194511月に祖国に戻るまでずっと労働者として土木建設工事の強制労働に従事させられていました。

貴社から強制的に労働を強いられている間、私たち中国人労働者は非人道的な虐待を受け、行動の自由がなく、生存条件は極めて劣悪であり、労働者の安全保護設備や排置が不十分であり、毎日の労働時間は12時間以上の長きにわたっていました。重度の肉体労働に従事していたため栄養が極めて不足しており、病気になっても効果のある治療を受けられず、わずか1年間の間に31人が相次いで亡くなり、その他の者たちも大多数が怪我をしたり身体を損なわれたりしました。

半世紀が経ち、我々はかつて異なる方法で提訴してきましたが、しかし今に至るまで会社からなんら返答を得ることがなく、更には全く報酬も補償も受けていません。今日、私たち労働者の大多数は無念の思いが晴れないままに亡くなっています。健在者も既に80歳余りの高齢者です。中国人の尊厳を守り、私たちの合法的な権益を擁護するために、私たち5名の健在者はその他の491名の同胞を代表して貴社に謹んで以下の三つのことを強く求めます。

1.法的及び人道的責任を必ず負い、私たちに謝罪すること

2.後代の人の教育と中日の長期的な友好のために記念碑・記念館を建立すること

3.私たち496名の物質的・精神的損失を償うこと

私たちの上述した要求は完全に正義であり、「中日共同声明」に背くものではなく、また日本の最高裁判所による2007427日の「西松建設中国人強制連行・強制労働損害賠償請求事件」判決に書かれている「付言」の精神(「本件被害者らの被った精神的・肉体的苦痛が極めて大きかった一方、上告人「西松建設」は[中略]相応の利益を受け、さらに前期の補償金を取得しているなどの諸般の事情にかんがみると、上告人を含む関係者において、本件被害者らの被害救済に向けた努力をすることが期待されるところである」)に完全に符合する。貴社が誠意をもって早く最高裁「付言」の精神を実行し、私たちが生きているうちに人道的・合法的及び合理的に対応することを望みます。そうすることは、中日両国の長期的友好の大局のために貢献することになるだけではなく、貴社の企業イメージを高めることにもつながります。貴社がそのような努力を行わない場合は、私たちの要求実現に協力してくれる劉宝辰教授(中国河北人学)や「大府飛行場中国人強制連行問題愛知対策委員会」(注2)などの日本の有志の人々と共に、私たちは上述した三つの要求が完全に実現されるまで貴社と争います。

2012718

496名の被害労働者代表(全員健在)

姓名及び生年月日

唐燦(自生) 1925815湖北省黄石市

楊印山 1926321河北省定州市趙村鎮西南南佐村

王連喬 19271228日 河北省台市天厦嘉園金穂苑41302

楊東元 19229 30日 北京市西城区清21308

孔繁河 1923423山東省聊城市東昌府区梁水鎮西黄荘村

1:在日本出版≪資料、中国人強制連行的記録≫中以上5人的番号分別記為:406879248358

2:<代表>石川賢作、〈事務所〉日中友好協公愛知県連合会(名古屋市千種区末盛通4-18

(山田花尾里訳)