地崎組東川事業所日誌 巡回検診と体重検査(2)

東川事業所では、労務報国会による巡回診療も行われている。1115日の日誌には、「労報より派遣の大学解剖学博士平井氏及看護婦二名の来所ありて午前八時半より全員検診ありて患者はそれぞれ治療を受けたり」と書かれている。「労報」は、労務報国会の略称である。

19年労報」(GHQ/SCAP文書)という綴りのなかに、土木建築厚生会北海道支部から巡回診療実施の要領を受け取った地崎組本店が各出張所に連絡文書を出している。「労務報国会巡回診察に要する人員数調本店報告書」という昭和19年5月10日付の通知で、巡回診察の対象となる工事現場21カ所とそれぞれの人員数が書かれている。

「千歳丁地施設工事」「奔別砿坑道掘進工事」「登別施設工事」「東室蘭駅改良工事其の他工事」「歌志内坑道掘進工事」「野村砿業留辺蘂(北見)精錬所新設並びに鉱滓処理沈殿工事」「弥生砿坑道掘進工事」「美唄砿坑道掘進工事」「層雲峡●殊トラック新設工事」「日鉄輪西土木その他の工事」「空知砿坑道掘進工事」「松前線第五●鉄道工事「忠別川水温上昇放水池工事」「根室NE施設工事」「岩内●●●●道路改良工事」「上ノ国道路改良工事」「幌毛志第一日振隧道用コンクリート塊製作工事」「大夕張砿掘進工事」「落部野田生●線路改良土工其の他工事」「三井砂川砿掘進工事」「富良野土地整理工事」(●は判読できない文字)

この中には「留辺蘂の鉱滓処理沈殿工事」もあり、巡回診療が日本人ばかりでなく、中国人も対象にしていることを示している。

「土木建築厚生会北海道支部発地崎組あて『健康診断並巡回診療実施に関する件』」(1911月8日地崎組受付)には、「11月9日~19日 二見ケ岡・木田組(軍工事)、置戸・伊藤組(水銀鉱工事)、イトムカ・土屋組・地崎組(水銀鉱工事)ほか 医師2名、職員1名、看護婦2名」「1114日~23日 東川・地崎(水温上昇工事)、帯広・萩原(軍工事)ほか 電話連絡」という日程が記されている。東川出張所の日誌には1115日に巡回診療が行われたことがでており、符合している。

健康診断についても、東川日誌1030日分には「本日一同体重検査実施の為十五時閉業」「出働中の八〇番、一三二番腹痛の為午前九時三十分より休養せり」「一同十五時体重検査を実施」と記されている。

 西成田豊氏は『中国人強制連行』第7章「被連行中国人の死亡と疾病・傷害」で、「終戦末期、連日突貫工事がつづくなかで数十人から数百人の中国人をかかえる事業場が中国人の平均体重を測るべく健康診断をおこなう余裕などまったくなかったと考えるのが妥当であろう。前記の史料記述(多くの事業場報告書にみられる華工体重測定の記録)は、極東軍事裁判を前にして、国際法に触れる俘虜虐待の事実は『無い』ことを強調するための作文である」と書いている。頭から「健康診断は行われなかった」と決めつけることはできない。

 地崎東川での中国人証言は得られていないが、地崎大夕張の許煥廷は、1週間、あるいは10日に一度、体格検査をした。体重がどれくらい増えたか、減ったかを見た彼らの意思にかかわらず(直訳的には「意思を抑え」)、2斤よりすこし多いか少ないかだった」と証言している。

体重検査は半日かけて行われている。医師の診断がそうであったように、この体重検査も仕事を休もうとする労工を作業場に引っ張り出す材料に使われたのではないか。

 

日誌分析の最後に、死者の番号と時間は書かれているが、死因もしくは亡くなった時のようすばかりか死者の火葬・埋葬にかんする記載がまったくないことを指摘しておく。