水銀鉱山の強制労働(1)

 北海道北見市留辺蘂町イトムカと、その隣の置戸町には、豊富な埋蔵量を誇る水銀鉱山がありました。戦争中、水銀は兵器の部品などさまざまな用途に使われました。徴兵で不足した労働力は、朝鮮人や中国人の労働力によって補われました。この問題を「オホーツク民衆史講座と中国人強制連行置戸町史に見る中国人強制連行」「イトムカ探訪でとりあげました。

 坑内で水銀採掘にあたったという中国人の証言は、まだ見聞きする機会をえていませんので今後の課題としたいのですが、北海道訴訟札幌高裁の判決文に、「趙宗仁は, 同年531日, 野村鉱業の置戸鉱業所に送られ,同鉱業所において鉱物を掘る作業等に従事したとあることから、中国人も水銀採掘をおこなったことは確実です。

 中国人の強制労働で確認できたのは、イトムカの56号ダムの造成です。選鉱の過程ででる水銀を含有する廃水は、一般河川に直接流すことはできないため、いったん廃水をためて水銀を沈殿させて水銀の含有量を減らしてから川に流すことになります。そのためのダムを必要としました。56号ダムは、イトムカ鉱山の閉山後に埋められていますが(安全管理のためでしょう)、「1944年11月竣工」と刻まれた碑が残っています。工事を請け負ったのは、地崎組で、中国人496人を中国から連行して、工事に投入しました。完成後に、愛知県大府に移動させ、飛行場の滑走路拡張工事にあたらせました。

 イトムカ鉱山所長が語る戦後の56号ダム汚泥流出事件の顛末は、水銀が引き起こす環境汚染が甚大なものだったことが分かります。戦前であっても深刻な問題になっていたのでしょう。それで、中国人を使ってダムの造成をおこなったのでしょう。

 最近、北見市が北見工業大学の協力をえて、河川の水質検査をおこなっています。イトムカの下流域の水銀含有は、他地域に比べて高く、ウグイを食べることに注意を喚起しています。

 流出した水銀の処理問題は、中国人強制連行問題とは直接、結びついてはいませんので、深入りしませんが、関心はあります。

一つだけ付け加えると、日本共産党の紙智子参院議員が「蛍光灯水銀の回収及び適正処理に関する質問主意書」(2008年11月28日付)を提出しています。そのなかで「政府は、イトムカでは産業廃棄物である酸化水銀のアバタ付きのものを含む、すべての使用済み蛍光灯から水銀が回収・除去され残滓が埋め立て処理され、人の健康と生活環境の保全がされていることを、国民に対し完全に保証できるか」と質問しています。政府答弁書は、「最終処分場に埋め立てられている水銀の量については、使用済みの蛍光灯が、他の廃棄物とあわせて中間処理を経て最終処分場に搬入されるため、これを把握することは困難」と述べています。また紙氏が挙げたイトムカ事業所への道庁の立ち入り検査があった点については、「北海道庁からは、御指摘の立入検査は、平成二十年六月一六日に…約四時間にわたって行ったものであると聞いている」「使用済みの蛍光灯から水銀の回収が行われ、その処理により発生した残さが廃棄物として最終処分場において適正に処理されていることを確認したと聞いている」と回答しています。