イトムカ探訪(8)

水銀が引き起こす職業病については北海道労働基準局も企業も重大な問題という認識は持っていたようです。19501030日発行の北海道労働基準局編『第一回北海道衛生管理者大会研究発表録』には、野村鉱業株式会社イトムカ鉱山衛生管理者の十三可雄氏の報告が掲載されています。

水銀中毒はイトムカ鉱山の癌とも云うべく,昨1年に於て延1071月平均9人の者が罹患し,其の休業日数は18451日平均6人で、然も最も重要な鑿岩夫,採鉱夫,支柱夫が大半で其の20%が休んでいる. 此等坑内夫の94%が過去に於て水銀中毒に罹り,鑿岩夫の如きは大半2回以上罹患している状態である. 例え死ぬことなく,又廃人になることがなくとも罹病率が斯く最高数字を示している水銀中毒に対し,国家は速に珪肺同様調査研究其の対策を樹立すべきである 。

 

「水銀鉱山の癌」という表現は、罹病率の高さはもとより、その症状をも言い表しています。水銀中毒の症状について、同氏は次のように語っています。

 

水銀中毒は,大体自然水銀の含有多い現場で作業すると早い者で5日、大体2週間乃至3月で治癒する. 個人の栄養体質に依り非常に罹患し易い者とし難い者とがある.人に依り急性に出るものと慢性的に出る者があり,急性の者は汞毒性口内炎又は歯齦炎を起し,口内が金属性悪臭を放ち,歯牙弛緩動揺を来し,歯齦は極めて出血し易くなり,食事不能となり甚しきは歯牙脱落する者もある.慢性の者は神経系統が侵され,手足体に震顫が起り頭痛,頭重,全身倦怠、不眠,食慾性慾減退し,顔面蒼白体重著しく減少自然衰弱する.慢性の者も口内炎, 歯齦炎を併発する者尠くない。