民間人戦争被害者はなぜ放置されてきたか 瑞慶山茂弁護士の講演

 「集団自決」をめぐる教科書問題を機に、沖縄の情報発信に取り組んできた「沖縄戦首都圏の会」が9月8日、文京シビックセンターで瑞慶山茂弁護士講演会を開いた。

 瑞慶山氏は、沖縄戦と南洋戦における日米軍の残虐非道な加害行為と被害実態を詳しく語ると共に、裁判所が被害事実を認定しながら、被害受忍論や国家無答責論に逃げ込んで、請求を棄却し、司法の役割を放棄した判決の不当性を批判した。

  瑞慶山氏は、パラオ生まれで、1歳の時に避難船が沈没させられた中、生還した体験を持つ。沖縄戦被害救済のため沖縄民間戦争被害者の会をつくり、裁判闘争を進めるととともに、戦災者救済のため、新法律制定運動を進めてきた。

  講演の骨子は、

1 沖縄戦・南洋戦被害-日米軍の残虐非道な加害行為と被害実態

2 国の戦争責任を法的に追及するために沖縄戦国賠訴訟を提起

3 請求棄却判決と不服申し立て

4 南洋戦・フィリピン戦国賠訴訟の提起

5 民間人救済法制定運動の現状

6 未だに国が戦争被害者救済しないことの重大な意味

である。

  瑞慶山氏は、日本の援護法体系について、次のように解説した。

  <先の大戦による戦争犠牲者は、「我が国の軍人軍属や一般邦人はもとより、戦火を交えた国々の兵士、さらに戦場となったアジア諸国の多数の人々など」に及んだ。このうち日本人に対しては、旧厚生省(現厚生労働省)を所管とする援護行政上、1952年「戦傷病者戦没者遺族等援護法」以降、十指に余る関連法が制定された。第二次世界大戦以降、欧米諸国(米・英・加・仏・旧西独・伊・奥)の戦争犠牲者補償制度では、国民平等主義と内外人平等主義がほぼ共通の特徴とされる。国民平等主義とは、軍人と民間人を区別することなく戦争犠牲者に平等な補償と待遇を与えることであり、内外人平等主義とは、自国民と外国人を区別することなく平等な補償と待遇を与えることを意味する。

一方、日本の援護立法体系では、空襲犠牲者等をはじめとした民間人犠牲者と旧植民地出身者などの外国人犠牲者が基本的に適用対象から除外されており、奇しくも、欧米諸国の補償制度で通例となっている二大特徴と正負相反する形で重なる。日本の補償制度では、「国家との身分関係」が要件とされ、また「内地すなわち銃後」との認識に基づき、一般戦災者は援護体系から除外され、外国人犠牲者の問題については、講和条約や二国間条約等により「解決済み」とするのが日本政府の立場である。>

  さらに、質疑応答の中でも、「日本の援護立法の体系で国家との身分関係法という要件があって、その要件を満たす場合は補償を認める、身分関係と言うのは、軍人、国家から雇用されていたもの、あるいは軍属、国家と関連ある者という限定がついています。そうすると、民間人はそこに入らないように、仕組みとしてなっているんですね。なんでそういう条件になったかというと、戦後できた法律ですので、国として戦争被害にたいしてどういうふうに向き合うかという基本的な考え方がある」「昔の考え方が根底的に維持できるという発想があったと思うんですよ。明治憲法下の考え方を維持するとすれば、国との特別の関係、国家が国民より上なんだと、その上に立法をしています。これに正当な理由があるかというと、日本国憲法の体系からいうと、法の下の平等に反し、正当な理由にはならない。日本の現行憲法では平等主義ですから、理由にはならない。憲法違反だという主張を沖縄戦訴訟でも東京空襲訴訟でも断固として主張してきた」と見解を述べた。

 講演を受けて日本被爆者団体協議会の木戸季市事務局長は、被爆者援護法が制定されていない根本に、戦争犠牲受忍論と国による国民分断政策があることを指摘し、原爆被害者と空襲被害者、沖縄戦被害者が共同して国に戦争責任を取らせようとよびかけた。

 瑞慶山氏が繰り返し強調したように、戦争被害は国家災害であり、国に責任がある。原爆被害者も空襲被害者も、沖縄戦被害者も、国の分断政策に対し、社会的連帯による共同で、民間人戦争被害者にたいする補償制度を国につくらせることが求められる。

ベテランズ・フォー・ピースジャパンの井筒高雄さんが町田市で講演

  元陸上自衛隊レンジャー隊員で、ベテランズ・フォー・ピースジャパン代表の井筒高雄さんの講演会が9月7日、町田市の「町田市民フォーラム」であった。

 「米軍と一体化する自衛隊」が講演テーマで、①米国の軍事戦略のうえにある日本②自衛隊と日米新ガイドライン憲法9条の改正と緊急事態条項④防衛予算と戦争経済⑤日米地位協定―の5つを柱にしていた。

 日米軍事同盟と自衛隊問題を考えるうえで、大きな比重を占める沖縄。井筒さんは、沖縄県が作成した「数字で見る沖縄の米軍基地」や「日本とドイツ、イタリアの地位協定比較」をとりあげ、「沖縄の問題としてではなく、日本の問題としてとらえるべきだ」とのべ、辺野古新基地が「普天間+軍港+弾薬庫」であり、新たな巨大基地であることであることを指摘しつつ、海兵隊の大半がグアムへ移転し、実動部隊は2000人程度になるのだから、辺野古新基地は不要であると断じた。

 安倍首相が“憲法9条に自衛隊を書き加えても変わらない”と言っている意図については、「すでに安保法制という立法事実を作っているからということだが、私は変わると思っている」とコメントした。

 

 主催は、「まちだ市民連合」。同連合代表の藤井石根さんは、「今、自民党総裁選で安倍さんが動いているが、われわれは選挙で選べない。政権をやめさせるに運動は来年の参院選でしかできないから歯がゆい」「沖縄の翁長さんは、日本の政治には愛がないといっておられたが、もう一度、われわれはそのことを押さえなければならない」とあいさつした。

活断層の上に基地 クローズアップされた辺野古新基地建設の問題点

 4月7日、沖縄県市町村自治会館で「3・13判決は何を審判したのか 活断層の上に基地!?」と題する緊急学習会が、辺野古訴訟支援研究会の主催で開かれた。検査で出席できなくなった翁長雄志知事に代わり、4月から副知事に就任した謝花喜一郎氏があいさつし「環境保全措置について看過できない事態があれば躊躇することなく必ず撤回をおこないたい」と知事のメッセージを伝えた。
 県の訴訟を担当する松永和宏弁護士、仲西孝浩弁護士が工事差し止め請求を棄却した那覇地裁判決の問題点について解説した。
 琉球大学加藤祐三名誉教授が、工事海域の断層が活断層であると推定される根拠について説明した。加藤名誉教授は、辺野古断層の延長線上の海底の地質図を示しながら、「沖積層が切れている。そうであれば活断層である。画像処理をしていない元データを見たい。15メートルくらいの落差になるが、これは日本最大の内陸地震である濃尾地震は6メートルくらいしか切れていないことからすると、何回も切れていることになる」と、この地域で繰り返し大きな地震が起こった可能性にも言及した。
(注:根尾村水鳥(みどり)地区での根尾谷断層は上下差6m横ずれ量4mにも及んでいる)
 行政法が専門の琉球大学徳田博人教授は、行政処分の撤回には「制裁型」「要件消滅型」「公益型」の3つがあるとし、▽制裁型は、相手方の法令違反等を理由として行うもので、損失補償は必要が無い▽要件消滅型は、埋め立て承認後に埋め立て承認の要件を満たす事実がなくなったことを理由に行うもので、相手方の瑕疵などが出てきた場合は補償が不要となる方向へ動く▽公益型撤回は、埋め立て承認後に行政側の都合により撤回するもので、公益の内容や我慢の範囲内かなどにより損失補償が検討される―と説明した。
 徳田氏は、軟弱地盤の問題や活断層の問題で撤回を行う場合、二つ目の要件消滅型になるとみる。
 「軟弱地盤の問題やあるいは活断層の問題は、仲井真知事が埋め立て承認した時に、事実としてこれほどピックアップされていなかったんですね。審査も形式的にしか処理されていません。埋め立て承認というのは二つの法律的な性格がありまして、当初は土地をどんどん広げていこうと、土地拡大のための法律でした。しかし昭和48年に公害悪化とかきれいな水が守られない、生物多様性が復興できないということで、環境や安全性の観点から厳しくチェックをいれてくださいよ、こういう法律に転換されます。いわば安全であるかどうか疑いがあると、できるだけていねいな調査をしてください、こういうふうに法律のしくみが転換するんですが、仲井真知事が埋め立て承認をした段階では、さきほど加藤先生がおっしゃったようなことを認識していなくて、現在、認識されている段階で、本来であればていねいな調査と事実を公表して、専門家の意見を聞いて、議論はここまでいっていますよと。ここを見ていく必要があります」。
 ただ、「後発的瑕疵等で安全性の観点から撤回せざるを得ない場合、損失補償のない方向になる」と指摘する。
 「今回の活断層問題とか軟弱地盤の問題は、その後の事情によってこれは中止をしたり調査をしてください、あるいは科学的にある程度、事実、環境に与える著しい影響を与えるだろうということが明らかになった場合には、撤回まで行くと思いますけれども、要件消滅型になるだろうと。ただし今まで沖縄防衛局がやったことはどういうことかいうと、たとえば埋め立て工事をする場合には、設計図をつくったときに、本当にその設計通りに工事をして安全かと実施設計で調査をするわけです。本来であれば、全部の図面を調査して安全が確保されて初めて工事を実施するんですが、それで初めて協議しなさいとやるんですが、一部だけ実施計画してまだ終わっていない、協議が整っていない段階で、工事を進めていく。さきほど、いろんな問題があるのに、もっとていねいな事実を提出してください、あるいは一時期調査をするので工事を止めてくださいと指導している。岩礁破砕や軟弱地盤の問題で、専門家がいろんな疑問を呈しているわけです。もっとていねいにしてくださいと言っているにも関わらず強行に工事を進めると、いわば要件消滅型の撤回の性格から、制裁型の撤回へと性格を持つんだろうと私は思っている」
  そして、「沖縄県は、政府が行っている事実の隠ぺいをあぶり出しながら、一つひとつ科学的な方法で撤回の事実を固めようとしていると思っている」と県の対応についても前向きの評価をした。

辺野古に新基地はつくらせず、県経済発展を推進する沖縄県予算が成立

 沖縄県議会は3月28日の2月定例会最終本会議で新年度予算を賛成多数で可決して閉会した。

 沖縄自民党は県提出の予算原案にたいし、知事訪米費用とワシントン駐在員の活動費用をゼロにする修正案を提出した。提案理由の説明では、ワシントン駐在員の活動費用の減額し、ゼロにする意見を自民党は毎年出してきたこと、知事の訪米は、日本政府と話しあわずに、米国に直接言うというのはおかしいというものであった。他府県はともかく、沖縄県の場合は、仲井真前知事も訪米活動を行っており、県の施策を前進するために訪米活動を行ってきているから、要は、辺野古新吉建設反対の主張を日本政府の頭越しに主張することはやめよということである。

 与党側は、会派「おきなわ」の新垣光栄議員と、共産党の比嘉瑞己議員が自民党修正案に反対し、予算原案に賛成する討論をおこなった。翁長知事4年目の総仕上げの年の予算であり、「辺野古に新基地は造らせない」という公約を県政運営の柱にすえるともに、「子どもの貧困解決」をはじめ、医療、教育、福祉など県民生活を守り、県経済発展を推進する予算であることを主張した。以下、比嘉議員の討論を紹介したい。
              ◆
 翁長県政は、辺野古新基地建設を許さないという「建白書の実現」を求める、沖縄県民の圧倒的な民意に支えられ、一期目の総仕上げとなる新年度を迎えます。翁長県政はこれまで、「辺野古に新基地は造らせない」という公約を県政運営の柱にすえるともに、「子どもの貧困解決」をはじめ、医療、教育、福祉など県民生活を守り、県経済発展のための産業振興や雇用創出を推進し、また、沖縄の魅力である離島の振興、豊かな自然環境の保全、ウチナー文化の普及促進などに取り組み、「誇りある豊かな沖縄」を実現するために全力で取り組んできました。
 こうした翁長県政の取り組みは、様々な指標からも成果が表れてきています。昨年度の入域観光客数は約940万人、そのうち外国人客は254万人と、5年連続で過去最高を更新するとともに、8月には月間で初めて100万人台を記録しました。観光関連産業の経済波及効果は遂に1兆円を超え、情報通信関連産業の売上高は4200億円、農業産出額は1000億円を達成し、全国一の伸び率となるなど、県経済はかつてないほど好調に推移しています。雇用状況については、年平均の完全失業率は平成25年の5.7%に対して、平成28年が4.4%、平成29年が3.8%と大幅に改善し、有効求人倍率も復帰後はじめて、年間を通じて1倍を超える記録をつづけています。
 「米軍基地は沖縄経済発展の最大の阻害要因である」。基地関連収入が県民総所得に占める割合は、復帰前の昭和40年度には30.4%でしたが、本土復帰直後の昭和47年度には15.5%。平成26年度には5.7%と大幅に低下しています。一方、米軍基地返還跡地を見れば、那覇市小禄金城、与儀タンク跡、北谷町美浜、北中城村米軍泡瀬ゴルフ場跡地と、いずれの地域も目覚ましい発展を遂げています。那覇新都心地域では直接経済効果は32倍、雇用効果は93倍と、文字通り那覇市の新たな都市拠点として発展しています。「基地をなくしたほうが、沖縄は発展する」。多くの県民が確信をもって歩みつづけています。
 いよいよ、翁長県政のもとで好調な県経済をさらに発展させ、正規雇用の拡大、県民所得の向上へと繋げていく取り組みが実を結ぼうとしています。
さて、沖縄自民党から提出された修正案について反対の理由を述べたいと思います。修正案の提案理由は「ワシントン駐在員活動事業費jと「翁長知事の訪米事業」の削除を求めるものとなっています。

 まずはじめにワシントン事務所についてですが、同事業は沖縄の基地問題に関連する情報収集や、沖縄の状況などの情報発信を主な役割としており、平成27年の事務所設置から米国政府関係者と延べ668人と意見交換を行い、重要な成果をあげてきました。
なかでも、ワシントン事務所が取得した資格・外国代理人登録法(FA R A)に基づく活動は、123人の関係者と面談を行っています。FARAはアメリカの世論や政策等に影響を与えようとする団体がアメリカの外国人登録法にもとづいて登録をするものであり、こうした米国政府公認の活動によって、沖縄の主張を正確に情報発信していることは、費用対効果では測りきれないほどの大きな成果をあげています。
 特に昨年2月に公表されたアメリカ連邦議会調査局報告書に、辺野古新基地建設をめぐる沖縄の現状や、沖縄県の主張について明記されたことは大きな成果でした。報告書には、辺野古移設を巡る法廷闘争の一連の経緯を説明するとともに、県が最高裁で敗訴したものの、翁長雄志知事が「建設を阻止するための、さらなる戦略の模索を誓った」ことを指摘し、「地元住民の反対で、合意履行には懸念が残る」と分析しています。また日米両政府による「高圧的な行動が基地反対の抗議の激化を招く恐れが残っている」 ことも警告しています。こうした報告書がアメリカ連邦議会に伝わり、米国の政策に影響を与えることを考えれば、沖縄の主張を直接、正確に米国政府に伝えるワシントン事務所の役割はますます重要になっています。よって、「ワシントン駐在員活動事業費」の削除を求める修正案に反対をするものです。
 次に知事の訪米事業についてですが、戦後72年経った今なお、国土面積の約0.6%に過ぎない沖縄県に、在日米軍専用施設の約70.6%が集中するなど、沖縄県民は過重な基地負担を背負い続けています。知事訪米事業は、こうした沖縄の米軍基地を巡る諸問題について、知事が直接訪米し、米国政府、米国連邦議会等関係機関に対し、地元の実情を伝え、米国側の理解と協力を促し、沖縄の米軍基地問題の解決促進を図ることを目的としています。
 沖縄県ではこれまでも、昭和60年以降、西銘知事、大田知事、稲嶺知事、仲井真知事と歴代の知事が訪米事業を行ってきました。保守・革新を問わず、その時々における在沖米軍をめぐる懸案事項について、米国政府等に直接、県知事が要請を行い、日米両政府の基地政策に影響を与えるなど、大きな成果を上げてきています。
 翁長知事がこれまで4回の訪米で米国政府との意見交換を行うとともに、延べ34人の連邦議会議員と面談を行ってきました。今回の訪米では、ワシントンDCで国内外の有識者と連携したシンポジウムを開催し、沖縄県の過重な基地負担の現状、沖縄の基地建設の歴史的経緯、辺野古新基地に反対する県民世論を正確に伝えることができました。
このように、知事が直接訪米し、その時々の沖縄の情報を正確に伝え、米側の理解を促す取り組みを継続することは、沖縄の基地問題を解決するためには必要であり、特に安倍政権が「辺野古が唯一」の解決策との考え方に固執している現在の状況では、これまで以上に、知事の訪米行動は重要な取り組みになっています。よって、「知事訪米事業」の削除を求める修正案に反対をするものです。

 ところで、安倍政権は県民の圧倒的な民意を無視して、辺野古新基地建設を強権的な手法で進めてきましたが、新基地建設計画は日米両政府の思惑どおりには進んでいません。仲井真知事が自らの公約を破り、辺野古埋立申請を承認したのは2013年12月のことでした。しかしその後、翁長知事による埋立て承認の取消し処分、訴訟結果としての和解による工事停止、そして決して諦めずに不屈にたたかう沖縄県民の日常的な抗議行動によって、新基地建設計画は既に3年も遅れています。
 日米両政府の計画通りに進んでいたなら、今年2018 年1 月時点では既に護岸工事のほとんどが完成し、埋立本体工事も約8割が完了している計画となっていました。しかし現在は、工事工程表で示された32項目のうち、5か所の護岸工事が着手されている状況であり、日米両政府の計画は大幅に遅れているのが、今の辺野古の現状です。
 さらに、これまで辺野古新基地建設が計画されている海域には、活断層の存在が指摘されてきましたが、このほど沖縄防衛局はその活断層の可能性が指摘されている部分を黒塗りにして地質調査結果を開示しました。沖縄防衛局は活断層の存在を黒塗りで隠蔽したいようですが、しかし、沖縄防衛局が開示した別の報告書には「活断層の疑い」がしっかりと明記されています。
 それだけではありません。報告書には、活断層の疑いを示す海底とは、さらに別の海底において、地質調査が成立しないほどの軟弱地盤が深さ40mにもわたって続いていることが、明らかになりました。基地建設などに使用される巨大な構造物の場合、地盤の強度を示すN値と呼ばれる値は50単位程が必要と言われていますが、報告書では「N値ゼロを示すものが多い」と記載され、地質専門家はマヨネーズ並みの脆弱地盤だと指摘しております。
 辺野古新基地建設は日米両政府の思惑通りには進まないし、必ずや沖縄県民の抗議行動によって断念へと追い込まれるでしょう。こうした沖縄の現状を正確に、当事者である米国政府に直接伝えるためにも、翁長知事の訪米事業はますます重要になっています。
 今回の沖縄自民党提出の修正案は、「あらゆる手段で新基地を止める」という翁長知事の取り組みに反対するものであり、沖縄県民の圧倒的民意を無視して強権的に工事を進める安倍政権の立場にたつものです。保革を越えた辺野古新基地建設反対の民意の分断を狙う修正案に、改めて反対を表明するものです。

 さて、新年度一般会計予算案は、安全・安心に暮らせる優しい社会を構築するとともに、アジア経済の活力を取り込むことなどにより、県経済全体を活性化させ、安定的に発展させる好循環をつくりあげていくための大事な予算です。
安倍政権は辺野古新基地建設問題で対立する翁長県政に対して、新基地建設を認めろと言わんばかりに、沖縄振興予算の減額を続けています。沖縄が本土復帰を目前に控えた1971年(昭和46年)、政府は沖縄振興開発特別措置法を制定いたしました。悲惨な地上戦で甚大な被害を被り、戦後も長年にわたり米軍占領下にあった沖縄に対して、「県民への償いの心」をもって事にあたるとされたのが、沖振法の原点です。基地と振興策をリンクさせるようなやり方は許されません。
 また、安倍政権は沖縄振興予算について概算要求の段階で総額を決め、国直轄事業を優先的に確保した上で、県や市町村にとって自由度の高い一括交付金については大幅な削減を行いました。沖縄の自主性を奪うような政府の露骨な手法に、多くの県民が不信感を募らせています。しかし、こうしたなかでも翁長県政は県と市町村の一括交付金の配分について、5対3の配分を堅持するとともに、市町村への影響を最小限に抑えるために、さらに県から市町村へ12億円の支援を行うなど、きめ細やかな配慮を行っています。
 そして、新年度予算の主な施策には、多くの保護者のみなさんの願いであった、子ども医療費助成制度の現物給付の導入と一部自己負担の廃止、窓口完全無料化が実現いたします。さらに通院医療費無料化の対象年齢拡大については、県と市町村との協議会が設置され、さらなる制度拡充が検討されることになりました。待機児童解消に向けては、市町村の認可保育園増設を支援し、保育土の待遇改善事業にも取り組みます。沖縄の保育において、大きな役割を果たしてきた認可外保育施設に向けては給食費支援の大幅拡充が実現いたします。子どもたち一人ひとりに行き届いた教育の実現のために、少人数学級は小学校6年生まで拡大いたします。
 また、子どもの貧困対策では前年度比12億円増額の187億円の予算を確保し、放課後児童クラブ支援事業の拡充や、新たに「ひとり親家庭の高校生等に対する交通費支援」がはじまります。
 保健医療の分野では、性暴力被害者ワンストップ支援センターの施設建設、職員体制は30人から50人へと増員され、24時間365日対応へと拡充されます。北部基幹病院構想の実現に向けては、関係団体との協議会が設置され、建設にむけた議論がはじまっています。
 そして、経済振興の面では、アジア経済戦略構想の実現に向けた諸施策をはじめ、自立型経済の構築に向けた基盤整備、沖縄の亜熱帯性気候等を活かした農林水産業の振興、好調な県経済をさらに発展させるための諸施策が盛り込まれ、さらに、正社員雇用拡大助成金の創設など、雇用の質の改善に係る施策も充実しています。
このように、当初予算案は、沖縄らしい優しい社会を創りあげると共に、好況が続く沖縄経済をより発展させるための予算となっており、高く評価をするものです。
 よって、甲第1号議案「平成30年度沖縄県一般会計予算」について、沖縄自民党提出の修正案に反対し、原案に賛成するものです。

 

沖縄戦の遺骨を遺族の元へ

 洞窟で遺骨を掘る人「ガマフヤー」の具志堅隆松さんは、長年、沖縄戦の犠牲者の遺骨を掘り出してきた。しかし、掘り出した遺骨の身元が分からない、なんとかして遺族の元に帰してあげたい。たどり着いたのが、DNA鑑定だった。

 

●身元不明の遺骨、遺族をどうやって探すか
 「遺骨を掘っていたが、身元不明の遺骨。名前を書かれたものはなく、身元につながるものがない。兵隊なら認識票を持っているので、遺体の下にあるだろうと掘っていたがない。どこの部隊がいたか知られるから上の人が持っていたという。分隊長が持っていた。そうすると認識票の意味がない。将校は名前が刻印されているが一般の人は番号しかない」
 軍情報の秘匿を優先する論理と軍内部の差別にたいする具志堅さんの目は厳しい。そして、身元の手掛かりを求めて、厚労省名簿の提供を求めるも、ないという回答。
「国の責任で召集しておきながら、名簿すらないとは、あまりにも無責任だ」
では、沖縄の民間人は、どうだろう。激しい地上戦がおこなわれた沖縄戦では、軍の犠牲者以上に一般民間人が犠牲になっている。
「一般住民には残るものは何もない。軍服ならボタンの種類がある。住民は着物しか付けていないのでジャックルも付けていない。風葬中の遺骨かと思うこともあった」

 

●沖縄でもDNAがとれた
 「アメリカでDNA鑑定をやっていることが分かってきた。つながりがあるか、血縁関係を調べる。それで厚労省に沖縄の見つかる遺骨もDNA鑑定をやってくれと要請した。ところが、厚労省は、沖縄は南方でDNAはとれにくいと言われた」
ここで引き下がる具志堅さんではない。
「岩の上なら、日光にさらされているからDNAは取れにくい。しかし土の中なら取れると学者に聞いた。シベリアで見つかった遺骨は800体余りが帰っている」
論より証拠。具志堅さんは、遺骨発掘を通じて沖縄でもDNAが取れることを実証していく。
 「2009年に那覇市真嘉比地区で、都市開発事業が始まる前に、緊急雇用創出事業として遺骨の発掘をやりました。一人だけ名前の書かれた万年筆が出てきました。朽方という名前で、平和の礎で検索すると、千葉県の出身であることが分かりました。それで千葉県の新聞に記事を出してもらったところ、甥にあたる方が名乗り出てきました。叔父は当時としては珍しく180センチはあったと言います。それで確信しました。私が掘り出した中で一番大きい遺骨でした。DNA鑑定をしませんかと言いました。歯からDNAをとって血縁関係があることが判明しました。それから、4体のDNAが取れました。3体は真嘉比で、もう1体は浦添です。沖縄でもDNAは取れるんです。厚労省もDNA鑑定をやらざるを得なくなりました」

 

●四肢骨も対象に
 そのとき、厚労省は、名前の書かれたものがあるものはやりましょうという条件を付けた。これは、あまりにも沖縄戦の実態に合わない。100体あっても名前のわかるものが一緒に出てきたのは、わずか5体。具志堅さんが批判すると、歯がある遺骨はやりましょうとなった。しかし、これも沖縄戦の実態に合わない。歯の取れない遺骨も多い。600体のうち84体しかない。四肢骨をやるべきだと具志堅さんは主張し、これも認めさせた。
 ところが厚労省は、またも新たな条件を持ち出してきた。「個体性」。個体性というのは、他の人の遺骨と混ざっていないことをいう。たとえば1カ所で何人もが砲弾にやられたら、遺骨は他の人と混ざってしまうことは、大いにあり得ることだ。また、戦後、畑を耕すときに遺骨がいっぱい出てきたこともあり、いったん、畦などに積み上げて、それから地域の慰霊の塔などに持って行ったというから、「合葬」されていたのだが、“ありったけの地獄を集めた”と形容される戦火をくぐり抜けた当時の沖縄社会に「個体性」という概念を持ち込むことがどれほど沖縄の人々を苦しめることになるのか、官僚は分からないのだろう。
「昨年12月15日に副大臣の高木さんと会って話をして、歯か四肢骨のどちらかを検体に使いましょうとなりました」

 

●各地に残る遺骨も対象に
 沖縄県内で見つかった遺骨は、市町村の援護担当主管課を通して戦没者遺骨収集情報センターに連絡が行き、仮安置所に運び込まれることになる。焼骨されたのち、国立戦没者墓苑に納骨される。H28年度では、遺骨収集事業文化財調査、工事中に発見されるなどにより31件67袋が仮安置所に運ばれた。
具志堅さんは、仮安置所に運ばれた遺骨の焼骨をやめてほしいと県に訴えてきた。焼骨した時点でその遺骨のDNAが失われ、遺族に帰す道が閉ざされるからだ。
  「県に訴えたら止まりました。それから600体余りの遺骨がたまった。このほかに、遺骨は、各地の慰霊の塔などに納められている可能性があります。
魂魄の塔には、3万5000体余りの遺骨が納骨されたが、復帰後の1979年に国立戦没者墓苑ができ、ほとんどがここに移された。しかし、具志堅さんは「分骨」であり、魂魄の塔にはまだ遺骨が残されている可能性があると話す。糸満市真栄平にある南北の塔の遺骨は、まだ数えられていないという。このほか、読谷村の梯梧の塔、伊江島の闘魂の塔などにもあり、2000体はあるだろうと具志堅さんは推測。これらもDNA鑑定の対象となるべきだと考えている。
       ※カギかっこ内は、2018年3月16日に南風原町で開かれた集団申請説

                        明会での具志堅さんの話に基づく

サンゴ移植の許可失効と不許可 行政の厳正審査で

 沖縄防衛局が名護市辺野古で進めている新基地建設の埋め立て海域で見つかったサンゴの移植は、採捕が許可された「オキナワハマサンゴ」については、3月1日に期限が切れ、移植がおこなわれないまま、許可の失効となり、他の申請については不許可となった。一部報道では、「政治判断だ」という評価もあったが、やや不正確に思う。結論的に言えば、失効及び不許可は、政治判断という要素はほとんど見られず、徹底した審査に基づいて導かれた判断であった。平易な言葉で言えば、沖縄防衛局の採捕許可申請は、「試験移植」としての要件を満たしておらず、申請を出し直しなさいということである。自然保護団体の抗議を受けて、許可を取り消したり、認めなかったということではない。

 

 ●生態的な知見なく、慎重に審査
沖縄防衛局は、環境省レッドリストに載っている「オキナワハマサンゴ」(絶滅危惧種)、「ヒメサンゴ」(準絶滅危惧種)を「試験移植」の目的で、書類上、5件の申請を行った。
昨年10月26日に申請した「オキナワハマサンゴ」は、県が目安としている45日の「標準処理期間」を大きく超える113日の審査を行い、水産資源の保護培養の趣旨から総合的に判断し許可した。その後、食害が見つかり、移植しないまま3月1日の許可期限が過ぎ、失効となった。県の担当部局は、2カ月の延長をと言ってきたが、それがだとうかどうか判断できない、それよりも申請をやり直した方がいいでしょと、押し返した。
 審査が長期になった理由について、県は、オキナワハマサンゴに関する生態的な知見が十分集積されていず、慎重に対応する必要があったと県は言っている。
環境省は、県の問い合わせに「オキナワハマサンゴが内湾的環境に生息し、波高が低い場所に生息状況から推察すれば、同サンゴの移植先については、波浪、潮流の影響を受けにくいと考える場所を選定する必要があると考えられる」としながらも、「移植先については、必ずしも内湾的環境に限られたものと示されているものではない」と回答している。
 県は、移植後初期の状態把握が必要と判断し、「移植後、当分の間、おおむね1週間ごとに経過観察をおこない、そのつど、県へ報告をおこなうこと」という条件を付けて採捕を許可した。モニターは、何カ月と切るのではなく、移植したサンゴが健全になったことが確認されるまでで、防衛局と協議しながらやっていくのだという。

 

食害の発覚 防衛局は、県の主張を受け入れて環境監視等委員会を得ることにし、申請を出し直すことに
一旦、県の許可が出たものの、沖縄防衛局の観察の中で「食害」が見つかった。この新しい事態の中で県は、沖縄防衛局に環境監視等委員会の助言を得るよう求めた。沖縄防衛局は、県の指摘を受け、環境監視等委員会の助言を得ることにした。といっても最初は、何人かの委員に聞いて済まそうとしていたようだが、県は、それにダメ出しをし、あくまで環境監視等委員会を開いて助言を得るべきだと主張したという。このため3月1日までに食害対策をしめすことができないまま、期限切れを迎えた。沖縄防衛局は2カ月の延長を要請したが、県は、2カ月が妥当か判断できないとして、申請の出し直しを求め、許可失効となった。

 

3月2日の4件の申請 食害対策示されず、ヒメサンゴの移植先も不適切と指摘
沖縄防衛局は、移植許可が失効した翌日の3月2日、オキナワハマサンゴ、ヒメサンゴの4件の採捕許可を申請した。県は、この申請にたいしても、オキナワハマサンゴについては食害対策が不十分だと指摘し、ヒメサンゴについては、移植先のサンゴモ類の生育状況との関係を考慮するよう提起した。
 県が防衛局に送った文書では、次のような指摘をしている。
 「今回、貴局(沖縄防衛局)職員による報告のとおり食害であるとするならば、本種(オキナワハマサンゴ)における食害の影響は、その生残や再生産にとって非常に憂慮されるべき事象である。オキナワハマサンゴの移植技術を検討するにあたっては、これまでの一般的なサンゴ類の移植にとどまらず、小型種が対象であることを前提に、食害対策に係る計画の検討が不可欠であることがこの度判明したところであるが、本件許可申請においては、その計画はなされていない」
 「本件申請において、移植先で確認されているヒメサンゴは2群体のみであり、いずれも10ミリに満たない大きさで、群体の周辺にサンゴモ類の明らかな繁茂がみられることから、やがてサンゴモ類に覆われて死滅する可能性が高いと考えられる」
 沖縄防衛局の主張だけで移植を進めれば、サンゴの生存は危うい、そのことを顕在化させる指摘である。
環境監視等委員会にもサンゴの移植に関する専門家はいないというのは事実のようだが、それでもサンゴの研究をしている学者も入っている。その専門家の助言なしにことを進めることはできない。あくまで「試験移植」であり、その態をなさなければならない。
 そしてこの県の審査のあり方から見て取れるのは、行政としての厳正審査が、沖縄防衛局にとって巨大な壁となって立ちはだかっているということができる。この壁を前にして、沖縄防衛局はたじろぎ、焦っているのではないだろうか。

 

法令上の要件満たさなければ不許可もと翁長知事
 翁長雄志知事は、今後の申請に関して「法令上の要件を満たしていなければ不許可も含め厳正に対処する」としている。基地建設で移植対象となるサンゴは約7万4000件。工事前にサンゴの移植を行うとする留意事項を沖縄防衛局が遵守するのであれば、埋め立て開始がいつになるのか、見通しはたたないということにならざるを得ない。留意事項違反を承知で6月にも埋め立てを開始するのだろうか。追い詰められているのは沖縄県ではなく、政府の方であることは間違いない。

辺野古新基地建設に伴うサンゴの移植問題(5)

(5)沖縄県は沖縄防衛局の移植許可申請で何を質したか

  沖縄県が2月16日付でいったん許可したオキナワハマサンゴの特別採捕許可は、その後、食害が見つかり、事態が大きく変わった。最終的には、許可の延長ではなく、期限が切れたのだから失効とし、申請のやり直しを県は防衛局に求めた。この経過については、別の機会に取り上げたいと思うが、県が特別採捕許可を出すにあたって、防衛局との間でどのようなやり取りをしたかを見ておきたい。

【県の最初の質問文書】 
1 採捕対象となっている動植物について。
採捕対象となっているオキナワハマサンゴについて貴局で把握されている最新の状態を写真等を用いて具体的に説明してください。また、当該サンゴの状態が今回計画されている試験研究に与える影響について貴局の認識をお示しください。
2 採捕の期間について
 採捕に必要な期間について貴局で把握されている当該サンゴの最新の状態を踏まえたうえで採捕の期間、その設定理由、環境監視等委員会委員の指摘事項等の整合性について具体的に説明してください。
3 使用漁具及び漁法について
 当該サンゴの採捕方法について、今回計画した方法を別の方法と比較検討した経緯があれば、その検討結果を示してください。また試験研究結果に及ぼす採捕方法の影響を事後に評価する基準について具体的に説明してください。
その他、試験研究計画について
1 採捕対象サンゴの運搬方法について
 今回計画した方法を、別の手段と比較検討した経緯があれば、その検討結果を示してください。また、試験研究結果に及ぼす運搬方法の影響を事後に評価する基準について具体的に説明してください。
2 採捕サンゴの固定方法について
 今回計画した方法を、別の方法と比較検討した経緯があれば、その検討結果を示してください。また、試験研究結果に及ぼす固定方法の影響を事後に評価する基準について具体的に説明してください。
3 採捕対象サンゴの移植先の海域について
 サンゴ礁の地形構造の面から評価したうえで通常時以外も含め当該海域の波あたりや流れの特性に関する貴局の認識をお示しください。
4 採捕対象サンゴの移植先で確認されているオキナワハマサンゴ5群体について
 貴局で把握されている最新の状態を写真等を用いて具体的に説明してください。

【2度目の県質問】
日付は12月15日。
Ⅰ 本件許可申請について。
1 貴職は本件許可申請において試験研究の目的をオキナワハマサンゴの移植技術の向上とされておりますが、貴職が認識されている移植技術とはどのようなものか、具体的に説明願います。
2 採捕対象となっているオキナワハマサンゴの状況について
 回答書によると貴局では、許可申請書提出前までに少なくとも3回の確認を行っていたにも関わらず、許可申請書ではその事実が反映されることなく、部分白化が進んでいる状況が確認されていることを前提とした試験研究計画となっております。本件許可申請で掲げられている試験研究の目的からすると、本件サンゴの状況が少なからず試験研究結果に影響を与えることは至極当然のことであり、そのため本件サンゴが部分白化が進んでいる状況にあるのか、または白化からの回復傾向にあるのか、もしくは白化から回復していると考えられるのかによって試験研究の計画はおのずと異なるものと認識しております。本件許可申請を行うにあたり、本件サンゴの最新の状況を反映させなかった理由について説明願います。
3 回答書の1―2
 本件サンゴの状態は、すでに移植しうる状態まで回復していると考えているとありますが、本件サンゴの現在の状況が、今回計画されている試験研究に影響を与える状態にあるか、貴職の認識を説明願います。
Ⅱ 採捕の期間について
 採捕の期間について採捕の許可申請書では、「当該オキナワハマサンゴ1群体は部分白化が進んでいる状況が確認されている。高水温が今後も継続する可能性があることを考慮すると、早急に移植することが有効と考えられる。以上のことを踏まえると当該オキナワハマサンゴ1群体については、上記期間に移植することが望ましいと考えられる」とあり、回答書では、「許可を得た後、準備期間及び海象解消を考慮したうえで移植作業を行うために必要な期間として設定したものです」とされております。採捕の期間の設定については、いずれの考え方をとられたものなのか、改めて説明願います。
Ⅲ 使用漁具及び漁法、運搬方法、固定方法について
1 貴職は、使用漁具及び漁法、運搬方法、固定方法という今回の試験研究における各種方法に関し、回答書において「今回の採捕方法による移植が成功すれば、今回の採捕方法は適切であったと評価できる」とされておりますが、何を持って移植が成功したと判断されるのか、具体的に説明願います。
2 また、適切であったと評価できるとする根拠について説明願います。
3 貴職は、「仮に今回の採捕方法による移植が失敗した場合であっても採捕方法が不適切であったのか、移植先が不適切であったのか等は、ただちに判明できないものと認識している」とされておりますが、何を持って失敗と判断されるのか、具体的に説明願います。
4 その一方で、「いずれにせよ当局としては、移植作業後、本件サンゴの生存状況等を確認するモニタリング調査を行うこと」としており、「当該調査結果や採捕の方法について移植後、環境監視等委員会に報告し、その意見を踏まえて検証する」とありますが、何についてモニタリングを行うこととされているのか、具体的なモニタリング項目と、その検証方法について説明願います。
Ⅳ 採捕対象サンゴの移植先について
1 許可申請書参考資料1の6ページにおいてオキナワハマサンゴの移植にあたっての必要な環境配慮のなかで「特に本種は内湾的環境に生息し、波高が低い場所に分布することから波浪、潮流の影響を受けにくいと考えられる場所を選定するよう留意する」と指摘されております。本種は移植先とされている海域は、サンゴ礁における自然地理学的には、前方礁原(礁堡)にあたると認識しており、うち湾的環境には当たらないと理解しておりますが、貴職の認識を説明願います。
2 貴職は、回答書において別添3の資料を示すことで本件サンゴの移植先の固定位置について荒天時の状況を勘案しても適切なものと考えられるとされておりますが、本職は、当該資料の意味について移植対象種の生息環境を考慮してその適地を移植先と選定したうえで、さらに移植したサンゴ類の生存率低下に影響する高波浪等の影響を緩和する措置として検討されたものであり、移植先としての海域選定の直接的な考慮要件ではないと理解しておりますが、貴職の認識を説明願います。

 これら二つの質問は、通り一遍の審査ではなく、法令にもとづいて一つひとつ厳格に判断する姿勢が貫かれていることを感じる。このことは、はっきり認識されるべきだろう。残念ながら、現段階では、防衛局の回答を入手できていない。しかし、環境監視等委員会で配布されている防衛局資料からは、県の質問にはまともに回答できなかったであろう。県の担当職員も「一般的な回答しかなかった」と述べているから、まともな回答と言えるものがなかったといいて、間違いはないだろう。そのことは、食害を受けたオキナワハマサンゴの件で沖縄防衛局は、採捕期間の延長を求めたが、県に環境監視等委員会の助言を得るべしと促され、県の言うことを受け入れざるを得なくなった。ここに、県の徹底審査が端的に表れている。
 防衛局にしてみれば、1件のサンゴ移植許可に何カ月もかかる、1万7000あるというサンゴの移植に何年かかるのかという深刻な問題に発展せざるを得ないかもしれず、大きな不安をもったことであろう。むろん、これまで何度も違法無法を重ねてきた防衛局が、もうサンゴの移植をやめたといって、埋立に走るかもしれない。そうなればいよいよ政府は、深刻な事態に立ち入ることになる。
 サンゴをまもるために採捕許可をしてほしくないとの思いは当然だが、国の違法無法とどうたたかうか、その角度から県行政を見る視点も必要と思う。